仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「日の名残り」  カズオ・イシグロ  (早川書房)

ノーベル文学賞をとったカズオ・イシグロ氏の作品です。

原題は「THE REMAINS OF THE DAY」

 

感想を一言でいうと

「さすがノーベル賞

 

面白くて読む手を止めたくないほどだったし

良く出来ている作品だと思いました。

 

ノーベル賞というと難しくてつまらないという

イメージもありましたが、

大江健三郎氏かな(^_^;))

そんなことはありませんでした。

 

 

 

舞台は、第一次大戦後のイギリス。

主人公は、イギリス有力貴族の屋敷に長年仕えた執事。

主人はもう亡く、屋敷はアメリカ人男性に買い取られ

新しい主人に仕えているが、戸惑うことも多い。

以前に勤めていた元女中頭の女性との関わりも

ストーリーの柱の一つである。

 

 

作品の見どころはさまざまあります。

 

ちょっとしたミステリー調になっているストーリーを追っていくこと、

古き良きイギリスが失われていく時代の描写、

アメリカと比してのイギリス文化論、

激動の時代の世界情勢・政治の動き、

主人公のほのかなラブロマンス、

主人公の仕事への誇り・敬愛する元主人への複雑な感情

小説としての優れた文章構成

などなど。

 

 

広範囲の読者をひきつけることのできる

幅の広さです。

ある程度、小説・文学に親しんでいる人なら

誰でも楽しめると思います。

 

 

 

私が興味をひかれたのは

新しい主人に対しての主人公の悩みです。

アメリカ人ということでいろいろ勝手の違うことが

あるのですが、

困っているのは雑談です。

主人が(おそらく)ジョークをふってきても

どう返答すべきかがわからない。

 

これはアメリカンジョークとイギリスのユーモアの

質の違いの問題と思います。

私はNHKラジオの外国語講座を聞くことがありますが

英会話講座の講師たちの雑談的対話の内容は

気になることがあって。

答えをもらえたような気がしました。

 

 

読み終わってよかったと思うことは

主人公の前向きさです。

 

彼は自分や旧主人の人生を客観的に分析しています。

後ろ向きに古い時代を回顧して、新しい時代を批判してばかりの

偏屈老人になってもおかしくない状況なのですが

彼はそうはならない。

旧主人とは大きく違う新主人にも

忠実に仕えようと努力します。

 

そこが、この物語の一番素晴らしい部分のように

思います。