仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「今昔物語集」   [平安?]

短い物語を集めた説話集
全31巻で、1000余りの物語が収録されている大作
 
日本・中国・インドを舞台とした巻がそれぞれある
内容は大きく分けて、仏教説話と世俗説話
「今は昔~」という冒頭が有名
 
長い作品なので、現代語訳の本は選りぬいた話だけをまとめた物が多く
大体、日本の世俗説話から選ばれているようです。
私もそういうものしか読んだことはありません。
 
 
感想を一言でいうと、おもしろいです。
古典だからとか抜きで、素直に小説・物語としておもしろい作品です。
読み始めたら手を止められずに一気に読み上げてしまいました。
 
芥川龍之介を初めとした近代作家が、この本から題材を取っているのもうなずけます。
芥川はモチーフにした小説を複数書いていますが、
ストーリー・舞台を活かした上で、近代的な人間心理の描写という新たな主題を
描いている所はやっぱり天才です。
 
 
 
 
特におもしろかった話をいくつかご紹介します。
 
 十六巻 二十八話  「長谷に参る男 観音の助けに依りて富を得ること」
 
 子供向けの民話で「わらしべ長者」と言われている話です。
 
 
 
 二十四巻 八話  「女、医師の家に行きて瘡を治して逃ること」
 
 腕は優れているが好色な老医師の所に、突然身元のわからない美しい女がやってきた。
 女は泌尿器系の病に悩んでいた。老医師は病を治した後に、とスケベ心を持っていたが
 女は病を治してもらった後に、ちゃっかり姿をくらましてしまった。
 
   賢い女患者がまんまとスケベじじいを出し抜いた所はスカッとしますね(笑)
 
 
 
 二十四巻 十四話  天文博士弓削是雄 夢を占ふこと」
 
 長期出張をしていた男が帰郷の途中で陰陽師と同宿する。男は悪い夢をみて陰陽師に占ってもらうと
 「明日家に帰ってはいけない。家にあなたに危害を加えようとする者がいる」と言われる。
 男は、陰陽師に対抗策を授けてもらい帰宅した。
 
  確かに家には男を殺そうとする者が待ち受けていました。それは男の妻の命によるもので
  妻は男の留守中に浮気をしており、相手に「帰ってきた夫(男)を殺してください」と頼んでいたのでした。
  不倫のあげく、旦那を殺してしまおうとする妻・・・・、怖~ 
 
 
 
 
 二十四巻 二十三話  源博雅朝臣 会坂の盲のもとに行くこと」
 
 岡野玲子さんの漫画「陰陽師」がお好きな方なら楽しめます。晴明の親友 博雅が主役。
 天然 博雅の顔を思い浮かべながら読むとほのぼのします。
 
 
 
 三十一巻 四話 
 
 絵仏師良秀の話。芥川の「地獄変」のモチーフ
 
 
 
 二十九巻 三話  「人に知られぬ女盗人のこと」
  
 ある男が見知らぬ女から家に上がるように招かれる。女は美しく魅力的で男は誘われるまま
 共寝した。正体不明のままで男は女の家で暮らすようになる。ある日から、男は女に命じられるまま
 盗賊の一員として働くようになる。一,二年が過ぎた後、女は不意に男の前から姿を消してしまった。
 
   正体不明の女にゾクゾクさせられてしまいます。途中、女と男のSMチックなやりとりもあり
   谷崎潤一郎的な耽美を感じます。
 
   「陰陽師」が白泉社の「月刊メロディ」で連載再開してますが、最新号の回はこの話です。
   岡野玲子さんの絵はこのアヤしげな話に雰囲気ぴったりです。
 
 
 
 
 二十九巻 十八話  「羅城門の上層に登りて 死人を見る盗人のこと」
  
 芥川の「羅生門」のモチーフ
 
 
 
 二十九巻 二十三話  「妻を具して丹波国に行く男 大江山に於いて縛らるること」
  
 妻を連れて山道を旅する男が途中で若い男と道連れになり、若い男の甘言にだまされ
 護身の武器を渡してしまい、木にしばりつけられた後、妻は暴行されてしまった。
 
  作者がとがめているのは若い男ではなく、男(夫)の方です。
  「山中で見知らぬ男に武器を渡すのは愚かだ」と。妻も夫を「だらしのない人だ」と責めています。
  現代の感覚ならば、若い男の非道を責める所なのにシビアだなあと印象に残りました。
 
   芥川の「藪の中」のモチーフです。こちらも女や男の心理を細かく描写していて
   興味深いです。
 
 
 
 二十七巻 十三話  近江国の安義橋の鬼 人をくらふこと」
  
 若い男が場の勢いで、鬼が出るという橋に度胸試しに行き、鬼に追いかけられ命からがら
 逃げ戻る。しかし、後日自宅にやってきた鬼に殺されてしまう。
 
   男は鬼を警戒して家の門を閉ざしていたのですが、弟に化けた鬼が「母親が亡くなった」
   と言って男をだまして門を開けさせ入り込み、男の首を食いちぎってしまいます。
   執念深い鬼の追跡がおっかないです・・・。
 
 
 
  
 二十七巻 二十三話  「猟師の母、鬼となりて子をくらはむとすること」
  
 猟師の兄弟がある日山に狩りに行くと、木の上から怪しい手が降りてきて兄の髪をつかむ。
 鬼に殺されると思った兄は弟に助けを求める。弟が放った矢に手はちぎられて兄は助かった。
 落ちた手を持ち兄弟は家に帰った。家には年老いて寝たきりの母がいたが、手はその母のものだった。 
 母はそのまま死んでしまった。
 
   鬼になった母が兄を襲った特別な理由はなく「人の親でひどく年老いたものは必ず鬼になって
   我が子をも食おうとするものなのだ。」と当たり前のように語られている所が怖いです・・・。