「小説の散歩みち」 池波正太郎 [朝日文庫]
池波氏のエッセイ集
内容は小説執筆にまつわるエピソード、生活雑感、食べ物について
などさまざま。
エッセイは、小説で描かれる池波ダンディズムのエッセンスが
凝縮している感じでぐっときます
震災のための節電真っ最中のこの夏には
特に胸にこたえるお話がいくつもありました。
池波氏の若かりしころには
東京の下町では今よりせまい間取りで大家族が暮らしていたが、
せまい家で息苦しく暮らしていたわけではない。
道路は子供の遊び場で、大人のサロンだった。
みな借家住まいで、住宅ローンに追われることはなく
男はゆったりとこづかいを遣って暮らせた。
多世代同居の家庭内では、老人の知恵が
親や子供を育てていた。
一番印象に残ったのは「自然の報復」という一話です。
むかしの東京の人びとは、水と太陽と火と土の恩恵と威厳を、謙虚にうけいれつつ、生まれ育ち、
暮らしてきた。それでないと、ささやかな一家庭でも、大自然の報復をかならずうけなくてはならなかった。
世の中がそういう仕組みになっていたのだ。・・・・・・・・・・・・・・・・・
いまから覚悟しておくべきだろう。
「かき氷」というお話も、今の時期にぴったりです。
扇風機も冷房装置も、冷蔵庫も、庶民の生活には無かった時代なのである。
そのかわりに夏の夕空には蝙蝠が飛び交い、微風に風鈴が鳴り、蚊やりのけむりの香ばしい
匂いがして、寝るときには青い蚊帳を釣った。・・・・・・・・・・・・・・
日中は蝉の声。ふりそそぐ強烈な夏の日射し。
[かき氷]は、その日ざかりの道を歩む人びとや汗みどろになって駆けまわり、遊びまわっていた
子供たちにとっての[オアシス」であった。
このような趣向で今年の暑い夏を楽しみたいですね。