仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「秘密」 東野圭吾 [文春文庫]

ベストセラーとなり、映画化もされた著者の代表作の一つ
 
 杉田平介の妻:直子と小学6年の娘:藻奈美は帰省中、夜行バスの事故に遭った。
 妻は死に、娘だけが奇跡的に助かった。
 しかし、生きていたのは娘の体だけで、その精神は妻のものだった・・・
 
SF的な設定の物語ですが、
心理描写がリアルなので荒唐無稽な印象は受けません。
主題も‘生まれ変わりの謎’ではありません。
娘の体を持つ妻との生活を送る夫の葛藤、
生まれ変わった人生を前向きに生きる妻(娘)の内面の変化、
夫婦間の激しい葛藤の末に出した、妻の結論
といった、人間の赤裸々な心情です。
 
 
 
 
主人公は夫平介なので
彼の心情が語られることの方が多いのですが
私は同性の妻直子の方に共感します。
きっと、女性と男性では読後感が違うんだろうなあ。
 
特に印象に残ったのは
生き直す決意を固めた直子の学業に向かう姿勢です。
彼女は、将来の目標を明確に持ち、日々熱心に取り組みます。
その動機は、彼女の一度目の人生に対する反省です。
 
専業主婦であった直子は、家庭円満で夫も娘も愛していたけれども
「夫平介に依存している人生である」という劣等感を持ちあわせてもいたのです。
そこで新たな人生においては自立する力を養うために、学校生活に励みます。
 
フェミニストタイプの)女である私には非常に共感できる心理なのですが
男性、特に専業主婦の妻をもつ方はどのように感じるのでしょうか。
 
 
 
それから、すごいと感じたのは
娘の体で生きる妻直子の心身の変化の描き方です。
直子は元々文系タイプなのですが、理系の娘の頭脳になったせいか
算数がすらすら理解できるように変わります。
夫平介に対しての感情にも思春期の娘としての要素が加わってきます。
 
 
最期は、娘藻奈美が嫁ぐシーンで終わります。
これはハッピーエンドと呼ぶべきなのかどうか、
読後感を一言でまとめることが出来ない
複雑な気持ちになります。
 
 
 
 
 
追記:
名作であることに異論はないのですが、
この作品って「ミステリー」なんでしょうか?
文学と呼んではいけないのかなあ。
 
あと、どうしても違和感があるのは
娘の名前。
藻奈美の「藻」って字面が悪いと思うんだけど。
他の字じゃダメなのかなあ?
または他の名前。