仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「おしょりん」   藤岡陽子  (ポプラ社)

時代は明治
文明開化、殖産興業の時期。

舞台は福井県の生野という村

主人公 むめ は近隣の村の庄屋の娘で
生野村の名家 増永家の跡継ぎ 五左衛門に嫁いだ。

しかし、結婚前に五左衛門の弟 幸八に抱いた恋心を忘れることはできず
子供を何人もさずかりながら、夫と心が通じあうことはない・・・。

都会で暮らす幸八は、村の生き残りをかけて
眼鏡生産を産業とすることを五左衛門に提案する。

五左衛門は悩んだ末、
増永家の財産を賭して、眼鏡生産に取り組む。





福井県は眼鏡の名産地。
おそらく近代史に取材したストーリーなのでしょう。
歴史を読み解く面白さがあります。

福井県に限らず、明治期の日本全体の空気を
感じることができます。


多数の登場人物もそれぞれ存在感があり、
「人間」がしっかりと描かれています。
現代が舞台では描けない人間像だと思います。





もう一つの面白さは
主人公むめの心の行方です。

年上で無愛想な夫としっくりいかず、
若く人当りの良い夫の弟と
ひそかに心の交流をもつ・・・、
というと陳腐な不倫小説になりそうですが
決してそんな結末には終わりません。

夫婦とは、人生とは、ということを考えさせられる
味わい深い小説です。



家制度がある明治時代の夫婦関係は
現代の日本人には納得しがたい部分もありますが、
「個人の自由」「恋愛感情」が最上であるとは限らないという
かえって新鮮な価値観を提示してくれるのではないでしょうか。



人生経験を重ねた大人向けの
小説です。