「変身」 カフカ 〔ドイツ・チェコ〕
1910年代(大正期)の、実存主義の先駆をなす傑作といわれる文学です。
人が虫に変身する話なのですが、SFでもファンタジーでもありません。
冒頭の文を引用します。
ある朝、グレーゴル・ザムザがなにか気がかりな夢から目をさますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な虫 に変わっているのを発見した。彼は鎧(ヨロイ)のように堅い背を下にして、あおむけに横たわっていた。頭をすこ し持ちあげると、アーチのようにふくらんんだ褐色の腹が見える。腹の上には横に幾本かの筋がついていて、筋 の部分はくぼんでいる。腹のふくらんでいるところにかかっている布団はいまにもずり落ちそうになっていた。た くさんの足が彼の目の前に頼りなげにびくびく動いていた。胴体の大きさに比べて、足はひどくか細かった
「これはいったいどうしたことだ」と彼は思った。夢ではない。見まわす周囲は、小さすぎるとはいえ、とにかく人 間が住む普通の部屋、じぶんのいつもの部屋である。
訪問販売員をしている青年グレーゴルは、一家(両親と妹)を養っています。
彼はある朝突然変身していました。「虫」といっても昆虫ではなく、たとえるならだんご虫のような生き物で
大きさは小さなボートくらいと思われます。
この虫は何なのか、どうして変身してしまったのかという説明は一切ありません。
自分が虫になったことに気づいたグレーゴルはパニックにもならず、仕事に出かけようと努力します。
家族と話そうともしますが、彼の声はすでに人間のものではありません。
家族の受け止め方も、凶悪犯罪に出遭ったような、ごく不幸だけれどもこの世にありえないことではない
といったような態度です。
物語はグレーゴルが変身してから死ぬまでの間を描いています。
家族は、虫をグレーゴルと認めて部屋に閉じ込めたまま世話をしますが、
日がたつにつれて態度が変わってきます。
グレーゴル自身もだんだんと虫になりきっていきます。
虫としての意識(味覚や触覚)がリアルに描かれていて、気持ち悪いです。
最後は、両親と妹がこれからの生活に希望をもち、晴れやかな気持ちになる場面で終わります。
この作品は何かを意味する寓話なのだろうと思いますが、
本文中には何も説明がないので、答えはわかりません。
私は、家族の態度の変化が一番気にかかりました。
短いけれども、強烈な印象を残す一作です。