仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「もっと塩味を!"Plus de sel, s'il vous plait!"」 林真理子[中央公論新社]

フランス料理のレストラン経営を志したことから人生が激変した女性を描いた長編
 
 安川美佐子がマダム、夫の直人がシェフを務めるパリのレストランシリウス」が「ミシュラン」レストランガイド の星を獲得した。長年の苦労の末念願がかなった喜びもつかの間、美佐子は夫から離婚を切り出される。   理由は若い愛人に子供が出来たことだった。
 
 
林真理子さんはエッセイを書く時、雑誌(対象読者)によってモードを使い分けていますが、
小説もそのようになっているようです。だから雑誌によってはチャラい内容の小説もありますが、
これは「婦人公論」に連載されていたので、けっこう骨太です。
 
フランス料理の詳しい描写や本格レストランの雰囲気などが書かれている文章で
その雰囲気を楽しめます。
 
 
 
物語は現在の美佐子の時間と、過去の回想を交互に描きながら進みます。
「現在」は、58歳で、ミシュランの星獲得直後に夫から離婚の申し入れをされる所から、
「過去」は、初めてフランス料理を食べた日(24歳の誕生日に最初の夫良一と一緒に)から始まります。
 
 美佐子は財産家に嫁ぎ、娘と息子がいながらもゆとりのある生活をしていたが、
 夫がファミリーレストランの経営を始めたことから、もともと味覚の鋭い美佐子はフランス料理店を経営
 することを夢見るようになる。それが東京の一流店のシェフ大久保勝との恋愛が始まるきっかけだった。
 
二番目の夫の直人と、パリでレストランを開き成功を得るまで、美佐子の人生は二転三転し
死ぬほどの辛酸をなめることもあります。
そして人生の最期に「とても大きな幸運と大きな不幸」に出会うことになります。
 
 
 
最後の場面がとても印象的です。娘の理恵に残した美佐子の最後の言葉
「私のいちばん好きだったのは・・・・・」 
日本人でありながらパリでミシュランの星を手にした美佐子は、周囲からは「夢をかなえた人生」と
賞賛されるでしょう。しかし、彼女が本当に望んだ人生とは違うものだったことに、そこで気付かされます。
 
物語は、フランスの料理評論家が書いた「ミサコの出発」という文章で幕を下ろします。
余韻の残る、映画のようなラストシーンです。