仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「アルジャーノンに花束を」  ダニエル・キイス  [アメリカ]

1966年に発表され、日本でもベストセラーとなったSF小説
 
 主人公チャーリィ・ゴードンは32歳で6歳児並みの知的レベルである知的障害者。気質はごく善良で
 向学心もある。彼は大学教授の研究の臨床実験の被験者となり手術を受ける。結果、彼の知能は
 急速に上昇し、IQ68から185という天才レベルに達する。
 
 
久しぶりに読み返してみました。
心温まる感動の名作だったというイメージで読み始めましたが、
全然心温まりませんでした。
感動の名作であることは確かなんですけど。
 
 
文章はすべてチャーリィの日記(経過報告)です。
文章のレベルでその時の彼の知的レベルが推測できます。
最初と最後は幼児の作文のようで、途中は大学教授のようです。
英語の原文をこのように日本語に翻訳した訳者の小尾芙佐さんはすごいと思います。
 
 
物語はすべてチャーリィの主観で綴られていきます。
 
手術前のチャーリィは、職場(パン屋)の同僚から馬鹿にされ笑い者にされても
「仲の良い友だち」だと思っています。
手術後に知的レベルが上昇した時、そのような自分を客観的に認識するようになります。
教授の学会発表の資料として同席した時、「自分は実験動物であり、一人の人間として
扱われていない」と感じます。
 
チャーリィは「頭が良くなりたい」という強い願いを持っていましたが、
それが実現しても新たな苦しみが生まれ、以前より幸せになったようには見えません。
 
アルジャーノンは実験用のハツカネズミで、チャーリィより前に手術を受け
知能が向上した被験者仲間です。
チャーリィはアルジャーノンに友情を覚え、彼の変化から自分の未来を読み取ります。
アルジャーノンは知能の低下や精神不安定な状態を経て、死にます。
 
チャーリィは残された「自分」の時間を使って、離ればなれになっていた
父や母、妹に会いに行き、謎であった自分と家族の関係を理解します。
 
急速に知能が低下していく自分を食い止めることはできず
チャーリィは元のチャーリィに戻ります。
 
以前の自分が書いた文章も理解することはできなくなったチャーリィですが
自分の偉業をおぼろげに覚えています。
   とにかくぼくわか学にじゅー用なことをはっ見したさいしょのばか人間です。ぼくわなにかをやったけど       なんだかおもいだせない。たぶん、われんや世界じゅーのぼくみたいなうすのろ人間のためになにかを      してやたのでわないかなとおもう。  
 
最後の文章は
  ついしん。どーかついでがあったらうらにわのアルジャーノンのおはかに花束をそなえてやてください。
 
 
 
 
人間にとって大切なことを語っている名作だと思いますが、
感動を受け止めるよりも
ある人物の感情が、見せ物にされ傷つけられ使い捨てにされたのを
一部始終見てしまったようで、重苦し~い気分でいっぱいになりました。
 
自分のコンディションが良い時を選んで読んだ方がいいかもしれません・・・。