仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「古事記(コジキ)」     [奈良時代]

日本史上、もっとも古い文献です。
 
日本の国の成り立ちから、第三十三代推古天皇までの皇統の記録を記した書。
神話として語られており、種別としては歴史書というよりは物語と呼んだ方が良いでしょう。
 
集英社の「田辺聖子古事記で読みました。
 
感想を一言でいうと、オモロイ です。
これが‘神話’でいいんかい!?とつっこみをいれたくなる、シュールでリアルなエピソードが
いくつもあってビックリです
 
 
最初の話は「国生み」、天地が生まれて日本の国土が出来ていくお話なのですが
その中心となるのが、イザナキノカミ・イザナミノカミという夫婦神。
二神の結婚のエピソードには、教科書には載せられないような具体的な描写があったりします。
 
二神はたくさんの神を生み出しますが、妻のイザナミノカミは火の神を産んだ時
体が焼けて死んでしまいます。
死んだ妻が恋しくて、イザナキノカミが黄泉国へ迎えにいくというのは有名なくだり。
妻の傷んだ体を見たイザナキノカミは恐れをなして逃げ帰ってしまいます。
醜い現実の前には愛もぶっとぶというのは実にシュールです。
 
キリスト教の聖書も天地創造から始まっていますが
いかにも神話然としたあの文章と比べると
古事記はいかにも人間くさいです。
 
 
 
日本を治めることになった神様ニニギノミコトが美しい娘コノハナノサクヤビメ
一目惚れして求婚するお話があります。
娘の父は娘の姉と二人で嫁がせましたが、
ニニギノミコトは姉はブスだと嫌がり、送り返してしまいます。
ところが、父が姉を嫁がせたのは永遠の命を贈るためだったのに
断ってしまったため、天皇家の血筋は寿命が限られるようになったというオチ。
 
結婚後すぐに、コノハナサクヤビメが身ごもったため、ニニギノミコト
結婚前の他の恋人の存在を疑います。
ヒメは疑いをはらすために、建物に火をつけて出産するという行動に出ます。
 
なんだか、現代の男女関係と変わらない感情の動きを感じます。
 
 
 
 
古事記の文中には、歌(五七五七七の短歌より長い)もたくさん
収録されています。
 
有名な歌を二つ
 
 ヤマトタケルノミコトが故郷をしのんで歌った歌
 
    倭は 国のまほろば       ヤマト
    たたなづく
    青垣 山隠れる          アオカキ  ヤマコモレル  
    倭し 美し             ヤマトシ   ウルハシ
 
      
 スサノオノミコト出雲国に新婚の宮殿を造る時に作った歌       
 
     八雲立つ             ヤクモタツ
       出雲八重垣          イズモヤエガキ
       妻籠みに            ツマゴミニ
     八重垣作る
       その八重垣を
 
 
 
 
 
 
全体に、万葉集に通じる素朴さ、おおらかさを感じます。
日本人の文化の源流がここにあるのかなあという気がします。
 
古事記」が今、古典文学の中でもあまりメジャーな扱いをされていないのは
内容が現代とかけはなれすぎていることと、思想的な問題がからんでくるからではないかと思います。
第二次世界大戦中に国民の思想教育の教科書として利用されていたため
イデオロギーの匂いが濃くしみついてしまっているのでしょう。
 
筆者の田辺聖子さんは戦前教育を受けた世代だけに、本文の中で自戒をこめて
そのことに触れています。
  「古事記は私たちの誇る民族遺産ではあるけれど、戦時中のように国粋主義に利用されることは
   再びあってはならないと思う。」
  「古事記は歴史書としてよりも、古代日本人の思想を反映した文学書として、すばらしい価値がある。
   第一級の文学なのである。」
私もそのようなスタンスで親しんでいきたいと思います。