「文章読本さん江」 斎藤美奈子 [筑摩書房]
世に無数に出ている「文章読本」を概括し批評した本
(文章読本は、プロの文筆業者が素人向けに書いた文章指南書のこと)
エッセイ風な語り口ですらすら読めます。
裏表紙のコピーに「斬捨御免あそばせ!」という通り、
既成の権威を斬りまくってる痛快な一冊です。
清水義範氏の「はじめてわかる国語科」の中で取り上げられていて
おもしろそうだったので読んでみたのですが
スマッシュヒットな快作でした。
女性にしか書けない内容ですね。
男性はメンツを重んじる生き物なので、
男同士の礼儀として、相手のカオ(特に同じ業界、年長者の)をつぶすような
振る舞いはできないのですが
女性である作者斎藤氏は、そんなことにはおかまいなし。
最初の章の「書く人の論理」ではこんなことが書かれています。
文章読本にはひとつの共通した雰囲気がある。どれもこれも「ご機嫌だ」ということである。・・・・・・・・
「いよっ、ご機嫌だね、大将!」とおもわず肩を叩きたくなるような雰囲気が、文章読本にはただよっているのだ。
オヤジが職場の若い者をつかまえて長々お説教をたれて悦に入っている、というような雰囲気のことです。
こんな場面を見たことは誰にでもあると思いますが、なかなか本人にズバリ指摘できませんよね~。
○御三家
清水幾太郎「論文の書き方」
○新御三家
本田勝一「日本語の作文技術」
最初の谷崎潤一郎が「開祖」なのだそうです。
この6冊、そしてその他多数の文章読本について
内容を分析し、思想別に種類分けしたり
各本の相関関係や、時代ごとの思想の変遷を論じたりしています。
どの章も、著者のセンセイたちを快刀乱麻ぶったぎりまくりで
せいせいします。
といっても、なんでもとにかく難癖つけるといった女のヒステリー的な内容ではなく
主題がぶれることなく論理的に文章が展開していくので、
小気味よく読み進められます。
取り扱っている内容に応じて文体を変えたりしてる所が
クスリと笑えます。
「作文教育の暴走」という章では
明治~戦後の学校での作文教育の変遷を追っています。
すでに「文章読本」は世に氾濫しているのに未だに
新作が出版されつづけるのは、世の人々が学校の作文教育に
不足を感じているからだろうという仮説の検証としてです。
いろいろな主義思想がある中
各時代の社会情勢に応じて、作文教育の勢力図には変化が
あったそうです。
なかなか説得力のある分析でした。
読み物としておもしろく、学術的にも価値が感じられる一冊でした。
「文章」に興味のある方にお勧めですが、
すでに「文章読本」を信奉されている方は手に取らない方がいいかもしれません・・・。