仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「父の詫び状」   向田邦子  [文春文庫]

テレビドラマの脚本家として高名な故 向田邦子氏の第一エッセイ。
数あるエッセイの中でも名作として評価されているそうです。
 
昭和の初めから終わりを生きた筆者の文から
昭和の日本の生活の匂いが感じられます。
 
古き良き日本の家庭像をしのぶことができます。
男女平等、個人主義の現代とはまったく違う家庭の姿です。
父親は家庭の主でいつもいばっていますが、
ふとした時に見せる家族への愛情に心暖まります。
フェミニストジェンダー主義の方には怒られそうですが、
私はこういうの、好きです。
 
 
 
向田氏の父上は、保険会社の地方支店長を務める転勤族です。
学歴のない身から大出世した苦労人で、
向田氏がかいま見る外での父親の姿は、家庭内での横柄な顔とは
別人です。
 
父上は会社の部下を家に招くことが多く、妻や娘は接待に忙しいです。
玄関でお客様の履き物をそろえるのが向田氏の仕事で
父は娘に履き物のそろえ方のマナーを伝授します。
現代の家庭には無くなってしまった風景で
だから日本はおかしくなったのだという気持ちになりました。
 
妻子をこき使う一方で、酔っぱらいのお客が歌う品の無い歌が
娘の耳に入らないよう、大声でごまかすという気遣いも見せます、
 
 
酔っぱらいの置きみやげの吐瀉物を娘が掃除している間中
父は寒い玄関で黙って立っています。
後日、娘に届いた手紙に一言だけ、詫びの言葉が書かれていました。
 
「済まない」と思ってはいても、簡単に口に出すことはできない
父の立場も切ないものですね。