「絢爛たる流離」 松本清張 [文春文庫]
12編収録の連作推理短編集
清張には珍しく、女性にもお勧めしたい作品です。
清張作品はハードボイルドでいかにも男性向けな感じで
娯楽として気楽には読めないのですが
この本は珍しくすらすら読めました。
掲載雑誌を見たら「婦人公論」でした。
女性向けに書かれたものなのかな、どうりで。
火サス(テレビドラマの)がお好きな女性にお勧めします。
ダイヤモンドをキーワードにした連作集になっています。
三カラットの高級ダイヤモンドの指輪の持ち主が陥る、不幸な事件を描いています。
殺したり殺されたり。
うまく殺人を隠蔽したはずでも
思わぬ所から露見し、主人公は結局破滅します。
九州の鉱山成金が娘に買い与えたことを振り出しに
このダイヤは何人も人物の間を渡り歩きます。
転売されたり強奪されたり、経緯はさまざま。
だから前作と次作の登場人物は、なんらかの関連があることになっています。
ダイヤが売買される時は、いつも同じ宝石商の手を通ることになっていて
狂言回しのような位置づけにしてあるところが、物語としての興趣を高めています。
時代設定は、昭和初期から戦後の高度成長期までという激動期で
ストーリーは起伏に富んでいます。
最終話「消滅」ではタイトル通り
ダイヤは消滅します。
ダイヤのガラス体は高熱に飴のように溶けはじめた。のみならず、銀色のまるいプラチナ台も原形がないほど
歪みはじめた。キラキラとしたガラス体は、遂に形もなくなり、鉄材の上に消滅した。絢爛たる消滅である。
ドラマチックに物語は幕を閉じます。