仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「坊ちゃん」 夏目漱石

昔読んだことはあるはずですが、あまり印象に残ってなかった作品です。
ふと思い立って読み返してみたら、意外と?おもしろかったです。
 
 東京育ちの単細胞で無鉄砲な若者、「坊ちゃん」が四国のある中学校の先生になるが
 たった一ヶ月で辞めて帰ってきてしまう話。
 
こんなふうにあらすじにまとめてしまうと
身もフタもない感じだけど、
キャラクターの描き方がおもしろくて楽しめます。
 
 
坊ちゃんは成人はしてますが、精神的にはごく単純で子どものよう。
大人社会の建前の裏のどろどろした人間関係を、子どもの視点から語った風刺的な物語といえるでしょうか。
現実にうっとおしい世間に埋もれて暮らしている自分にとっては、坊ちゃんの無鉄砲ぶりが痛快です。
ぽーんと仕事を辞められる所が実にうらやましい
 
学校内の人間関係の対立をすぐには読み取れず
振り回される坊っちゃんの描写がリアルだと思いました。
職場を選ばず新社会人の悩みですよね、こういうのって。
 
 
 
この作品は「中学生の読書ベスト○」などのリストにあがる定番小説ですが
子どもにとってもおもしろい作品であるのもわかります。
冒頭の坊っちゃんの子ども時代のいたずら武勇伝の描写なんて、男の子心をわしづかみにしそうです。
中学校の先生になった坊っちゃんは、男子生徒の悪さに悩まされますが
この辺りも中高生男子の共感を呼びそうです。
(宿直当番の坊っちゃんのふとんに、バッタが山ほど仕込まれていました
 
 
 
 
今回、印象に残ったのは「清」の存在です。
タイトル「坊っちゃん」の由来であるおばあさんが
実はこの小説の柱なのでしゃないでしょうか。
肉親からの愛情が薄かった主人公にとって母代わりのばあやさん。
清の無私の愛情なくしては、‘坊っちゃん’は成立しないでしょう。
 
無鉄砲ではた迷惑な人物である坊っちゃん
憎めない愛嬌を与えたのは清の愛情ゆえだし、
清を大切に想う坊っちゃんの描写なしには
たんなるドタバタ話に終わってしまったかもしれません。
 
「教育もない身分もない婆さんだが、人間としてはすこぶる尊い。」
清との対比によって、坊っちゃんの周囲の人間たちの俗悪さが
浮き彫りにされているようです。
 
 
 
中学校を辞めて東京に戻った坊っちゃんは清とまた暮らし始めますが、
清が肺炎で亡くなって、坊っちゃんの家のお墓に入ったという文で
物語は終わります。