仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「パディントン発4時50分」   アガサ・クリスティ

ミス・マープル」シリーズの長編ミステリー
とくに女性が楽しめる作品だと思います。
 
 
理由は、何人かの女性が活躍するからです。
 
事件の発端はマープルの友人の老婦人が殺人を目撃したことです。
その現場は走っている列車の中。
彼女は併走している隣の列車から見たのです。
だから目撃したのは一瞬で、その列車は走り去ってしまいました。
 
私が時々乗る電車の路線内で隣の線の電車と併走して
中の乗客の顔がわかるようなエリアがあるので
それを思い出しておもしろかったです。
 
 
老婦人とミス・マープルは、市民の義務として
殺人を駅や警察に知らせるのですが、
老人の妄想のように思われ、真剣な捜査は行われません。
 
自分には関係ないと放り出さず
「自分の義務」であるとして、真犯人を捜し出す
老婦人たちの頑固さ、誇り高さがいいなあと思います。
 
 
 
 
実際の犯人探索は、ミス・マープルの依頼を受けた若い女性が行います。
ルーシーというこの女性がまた、良いキャラクターなのです。
 
職業は家政婦ですが、ミタさんどころの人物ではありません。
ハイソなご家庭からひっぱりだこで、高い報酬を支払われる
スペシャルな家政婦なのです。
 
オックスフォード大学を首席で卒業するほどの才媛でありながら
この職を選んだ理由は、高収入を得るため。
人手不足の分野でこそ、かなえられるとの判断です。
 
家事全般、そして他人の家庭に入り込んで円滑に業務を行うということは
高いスキルを要する高度な労働である
というこの発想は女性ならではだと思います。
 
物語の大部分はルーシーの捜査、労働ぶりが描かれています。
ポリシーのある、共感のもてるキャラクターでした。
 
 
 
殺人事件のなぞは、あっと驚く解決で終わるのですが
ルーシーのロマンスもハッピーエンドを迎えるというおまけつき。
候補は二人いたのですが、そのどちらなのかは
明示しないで終わるというニクい演出でした。