仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「飛ぶ教室」    ケストナー   [ドイツ]

児童文学の古典的名作
特に男の子にお勧めしたいですね。
 
 クリスマス直前のドイツのギムナジウム(寄宿学校)を舞台に、仲良し5人組を中心にして
 学校生活や少年たちの成長を描く物語。
 
ギムナジウムというのはヨーロッパの学校制度で、
全寮制の男子校です。
この学校には10代 9学年の生徒たちが学んでいます。
 
学校生活の細かい描写がリアルで
男の子心をとらえるだろうと思います。
 たとえば、近隣の学校生徒との闘争とか
 「実業学校とのいがみ合いは、まあ、先史時代からのもので、10年前も、まったくおなじだったそうです。
 学校と学校のけんかで、生徒と生徒のけんかじゃない。生徒はただ学校の年代記にかかれていることをやって るだけなんです。」
 
タイトルの「飛ぶ教室」は、クリスマスの学校行事として行われる生徒演劇の名前です。
本番に向けて、盛り上がる生徒たちの姿は万国共通だなあと微笑ましいです。
 
 
 
作者ケストナーはドイツの国民的作家と呼ばれ、児童文学の大家です。
作品から、なるほど子どもの心理をよく理解し暖かい目で眺めていることが伝わってきます。
 
この物語には作者の「まえがき」と「あとがき」がついているのですが、
まえがきの一節が印象的です。
 「すっかり腹がたったのだ。なぜか。著者が自分の読者である子どもたちに、ほんとうに信じ込ませようとしてい たからである。子どもはいつも陽気で、どうしたらいいかわからないくらい幸せなのだ、と。・・・・・・
  どうして大人は自分の若いときのことをすっかり忘れてしまうのだろうか。子どもだって悲しくて不幸になること があるのに、大人になると、さっぱり忘れてしまっている。」
 
 
大人の登場人物のメインは「正義さん」と「禁煙さん」です。
この二人の人物の描き方から、子どものもつ鋭い大人に対する観察眼が読み取れます。
 「正義さん」は舎監のべーク先生といい、生徒の信頼・支持の厚い人物です。
生徒が問題を起こした時、その罰として先生は「2週間、自分に挨拶することを禁止する」と
生徒に申し渡すと効果絶大でした。
 「禁煙さん」は学校近くの小屋のような所に住む、身元不詳の男性ですが、
5人組からは正義さんと並ぶ信頼を受けています。 
 「正しいことと正しくないことの区別が難しい場合にこそ、相談が必要になることがある。そんなとき、みんなは  正義さんのところへは行かず、大急ぎで垣根をよじのぼって、禁煙さんに相談するのだった。」
 
 
 
主人公5人組の個性の違いも生き生きと描かれていて
彼らを取り巻く人物たちも存在感があります。
 
現役の子ども、または子ども時代を思い出したい大人のみなさんに
お勧めしたい佳作です。