仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「麒麟の翼」  東野圭吾   [講談社]

加賀恭一郎刑事シリーズ麒麟9作目
「新参者」の次で、ストーリー的には「赤い指」につながっています。
 
本の帯の作者の言葉には
「加賀シリーズ最高傑作と謳っていることだろうと思います。
その看板に偽りなしと作者からも一言添えておきます。」
とあるのですが、私はむしろ逆の感想です。
このシリーズは好きなので、残念・・・。
 
東野作品の特長の一つは、ストーリーの中に複数の要素・伏線を織り交ぜておきながら
それが見事に整合した、あっと驚く結末になっていることだと思っていますが
今回はそれが消化不良な印象です。
 
前作「赤い指」では、捜査=犯人一家の家庭問題の解決と、加賀刑事自身の父親との関係の終末が
見事にかみあっていました。
加賀の父の死後、将棋の駒を置くラストシーンが気に入っていました。
加賀家なりの父子の絆が感じられて。
 
それなのに、今作の冒頭はそのラストの余韻をぶちこわすかのようなエピソードから始まっています。
加賀父の担当看護師金森が「自分が手伝うから三回忌の法事をきちんとやれ」と加賀に申し入れるのです。
加賀が父の供養(墓参りなど)をろくに行っていないことを気にしての金森の行動なのですが、
看護師さんがそこまで患者の家庭に立ち入ることは通常ないでしょう。
なぜそこまでしてしまうのか、という金森自身の述懐はあるけど、説得力がないように感じられました。
 
金森看護師の論旨は「加賀は父の死に立ち会わなかった。それは父自身の要望ではあったけれど、
元気な時の発言であって、実際に死に瀕した時には息子に会いたいと思ったはずだ。」
だから加賀にもっと父の供養をしろということになる訳ですが、
私はどうも腑に落ちません。
 
親子関係は、基本的にはプライベートなことで、他人が口出しするようなことではないと思うし、
相手の父が死んだ以上は、加賀一人の心の中の問題になる訳で、ますます余計なお世話です。
「父の臨終に立ち会わなかったのは、あなたの間違いだった」といって今更何になるのでしょうか。
しかも、この投げかけに対して(私が)満足する回答は作品中で示されてません。
いらいらするなあ。
 
 
それから、肝腎の謎解きの部分にも不満です。
メインテーマは、父が息子の犯した過ちを命を賭けて正し、息子は改心する
ということなのですが
その父には、会社の管理職として派遣労働者に対して不法労働行為を行ったという
疑惑がかかっており、それは解明されません。
息子が「自分だけは父を信じる」といったところで
それだけでは説得力ないんですけど。
 
 
 
とにかくエピソードが散発的に並んでいて、整合性、説得力がなく
消化不良な読後感です。
 
気に入らない作品について長々述べるのは控えているのですが
とても残念なので、書かずにはいられませんでした。
 
2011年は作者の25周年記念で大作を立て続けに出していましたが
その分、出来が荒くなっちゃってるんじゃないかなあ
真夏の方程式」「マスカレードホテル」はまだ読んでないけど、不安だ・・・。