仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「谷間の百合」 バルザック  [フランス]

19世紀フランスを代表する小説家バルザックの代表作

清水義範氏の「独断流読書必勝法」で評されているのを読んで
興味を持ちました。
読み終わって「なるほど~」とうなずきました。


けっこう長い作品で、文章も長い。
修飾過剰な美文が延々と続きますが
けっこう読めました。全体の論旨としては一貫性があるので
面倒な所は読み飛ばしても大体理解出来ます(笑)。
時代がかった古典演劇を見るつもりで読むといいかも。


物語は、主人公の名門貴族青年フェリックスが恋人の伯爵夫人ナタリーに
送った一通の手紙という設定。(超長い手紙です)
時々物思いに沈む恋人の心境を問いただしたナタリーへの返事がその内容です。

要するに、過去の悲恋をひきずっていて、しばしば悲嘆にくれてしまうんだ
という答えなのですが
その悲恋の一部始終を事細かにねちねちと語っているのです。

甘甘な貴族ぼっちゃんの自己陶酔に延々とつきあうのは
忍耐力がいりますが、がんばりました。

不幸な家庭環境に育ったフェリックスが、田舎のある舞踏会でたまたま隣に座った
美しい女性に一目惚れして彼女の肩に口づけしまくるというのが恋の発端。
(現代人の私の感覚としては「キモッ」という所ですが。)

そのモルソフ伯爵夫人は、良妻賢母の見本のような貞淑な女性。
甲斐性なしの落ちぶれ貴族の夫と病弱な二人の子どもに尽くす「谷間の百合

彼女の家を訪ね、親しく訪問する仲となったフェリックス。
夫人と心を通じ合うようになるが、夫人はあくまで「プラトニック」を貫くよう強いる。
おあずけをくったフェリックスは、肉体的欲望と精神的愛情の間でもだえ苦しみつつ
夫人から離れようとはしません。

ある意味SM的ですね。この二人の間柄は。
夫人の偽善者ぶりにつっこみをいれたくなるくだりも多数。

この恋はフェリックスの「裏切り」をきっかけに終焉を迎えます。
パリ滞在中の彼が、セクシーなダドレー夫人に誘惑され関係を結んだことに
ショックを受けたモルソフ夫人は、そのために死を迎えます。
(やせ我慢の反動ですね~)



「かような悲恋のせいで、沈みがちな自分を理解して愛してほしい、ナタリー」
というのが長い手紙の趣旨なのですが
それに対する現在の恋人ナタリーのお返事は
「二番目の夫に、最初の夫の自慢を年中している未亡人のような殿方とは
おつきあいできません」

「いいぞ、ナタリー」
ナルシストな男を、一刀両断に切り捨てた痛快なラストが最高です。


主人公の長ったらしい独白にうんざりした分だけ
最期にカタルシスを得ることができる物語でした