仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「天使の牙」「天使の爪」  大沢在昌     [小学館]

2作のシリーズです。
 
主人公は女性警察官。
麻薬シンジゲートのボスの脱走した愛人の警護で
追っ手に撃たれて瀕死の重傷。
脳移植により愛人の身体で生き返る、という設定。
 
 
荒唐無稽な設定だし、
人物造形にはやや首をひねる所がありますが
主人公の心理の推移が興味深いのです。
 
 
主人公明日香は、体育会系の男勝りのバリバリ警察官。
愛人はつみは対照的な人物。
美貌だけが取り柄で男にぶらさがって生きている
と明日香ははつみを見下します。
 
 
ところが、明日香はそのはつみの身体で生きていくことになりました。
明日香の心理描写の中で、非常に共感した場面が一つ。
 
虚弱なはつみの身体で敵から苛酷な逃避行を続ける明日香は
今までの自分は間違っていたと感じます。
生まれつき頑健な肉体を持ち、鍛錬によってそれを向上させてきた明日香は
体力的に弱い人間のことを、怠け者とみなしてきました。
 
しかし、はつみの身体を持って初めて
鍛錬に耐えうるかどうかも生まれつきの素質なのだ
と気づきます。
 
体育会系には、元々の明日香のような人が多くて
だから苦手です。
(私は虚弱な文化系)
こういう理解を持っていただきたいものです。
 
 
 
 
 
二作目「天使の爪」では
恋人 仁王との恋愛感情がストーリーの柱の一つになります。
 
職場のパートナーで、脳移植前には婚約者であった二人。
移植後にも仁王の愛情は変わらない。
しかしそれがアスカ(明日香)の苦悩の元となります。
 
アスカはごつく男らしかった明日香とは正反対の外見。
フェロモン系の美女。
そのため、アスカは自分の外見に対して嫉妬するという
ややこしい状態にはまってしまいます。
 
 
 
普通に考えれば、女性が元より数段上の美女に
生まれ変わるというのは幸せととらえるものですが、
刑事という職業を生き甲斐としていたアスカには
頑健な肉体の方が価値があります。
 
鍛え直したとはいえ、アスカの肉体では
明日香とは比べものにならない。
また美女であるがゆえに周囲の対応も異なり
以前の自分と同じようにふるまうことはできない。
不本意ながら、女の武器を利用する場面もでてきます。
 
 
女性のアイデンティティと外見とは分かちがたいもので
それを肯定的に捉える方が主流だと思いますが
否定的に捉えて悩む女性もいます。
「女の価値は外見にしかないのか」と。
 
私も若かりしころには反発したり葛藤したりしました。
(今はそんな青い時期はとうに過ぎていますが
 
 
 
 
 
最終的にはアスカは自分なりの結論を見いだし
心の安定を得ます。
 
なかなか興味深い命題でした。