「天地明察」 冲方 丁 [角川書店]
時代小説
幕府の権力者の依頼を受け、新しい暦の開発とその全国実施を達成するまでの物語
いくつかの楽しみ方が出来る小説です。
時代小説として、江戸の文化を味わったり、思想や学問の知識を得たり。
「貞享暦」という暦が実現するまでの過程を楽しんだり。
一人の青年の成長物語としてもおもしろいです。
江戸の学問芸術の知識がくわしくわかります。
歴史上の人物が出てきて、それぞれキャラがたってて楽しめます。
主人公春海がアイデンティティを求めて煩悶放浪する辺りは
青春小説です。
春海は、碁の名家に生まれ公に奉職しながら
自分の本分を算学に求めています。
渾身の出題(自分で問題を創作する)で彼に挑みますが
それは誤問でした。
その恥からなかなか立ち直れずドツボにはまり続ける彼には
イライラしますが、自意識過剰が若さというものかな
各界の一流の年長者に出会うことによって
ドツボから抜け出していきますが
私はこの辺りのくだりが好きです。
「達人」「玄人」が好きなので。
春海が神道について述懐するくだりが、個人的に興味深いです。
神道は、ゆるやかに、かつ絶対的に人生を肯定している。死すらも“神になる”などといって否定しない。・・・・・・ 仏教が伝来したときでさえ、宗教的権威を巡って果てしなく激突し続ける、ということもなく、まるで底のない沼 地のように相手を飲み込んでしまった。むろんそれでも権威を巡る争いが起こる。だがその争いもまた神道に おいてはゆるやかに肯定され、より大きな“巡り合わせ”とでも言うような曖昧な偶然性のうちに包み込まれてし まう。
日本人の価値観、文化の土台は神道だと思うんですよね、今でも。