仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「春にして君と離れ」   アガサ・クリスティ   [ハヤカワ文庫]

アガサ・クリスティですが、小説ではなく文学の書庫に入れました。
 
クリスティは、実はミステリーではない作品も書いているんですよね。
 
 
この作品は作者としても一番気に入っているものだそうです。
読むとなるほどと思いました。
女性向きです。
 
私はこの邦題も好きです。
直訳すると「春の別離」などになるんだと思いますが
あえて意訳している所が日本語って美しいなと思います。
 
 
 
【ストーリー】
 
主人公は良い家庭の主婦で
社会的、経済的に成功した温厚な夫を持ち、
3人の子供もそれぞれ家庭を持ち独立している。
 
遠方に住む娘を訪ねる旅の途中、
彼女は自分の人生を新たな視点で振り返ることになる・・・。
 
 
 
 
自分は良い妻・母で
家族を幸せにして、良い人生を送ってきたと
疑ったこともなかった彼女が
初めて自分に疑念を持ち、
自分を客観的に振り返ります。
 
 
現代の日本にもいそうな女性像です。
自分は良い妻・母で家族のために尽くしてきたのに
なぜか家族がそっぽを向くと
お悩みの奥様にお勧めしたい一作です。
 
 
ミステリーではないのですが
主人公の自分探しの旅の終着点は
どこに着地するのかと
ドキドキしながら読み進めました。
 
そして、
ラストが秀逸です。
 
主人公は新たな自分を発見して
旅を終えたにもかかわらず、
帰宅し普段の生活が始まると
元に戻っちゃうんです。
あれだけ自己と向き合って対話した結果が
すべてリセットされちゃうんですね。
 
 
クリスティはやっぱりすごい
と感銘を受ける佳作です。
 
 
 
 
 
解説は栗本薫氏が書いていました。
その中で氏の夫君が「この小説の主人公の夫がいやなヤツだ」と
コメントしたと述べています。
 
その一言も目からウロコでした。
「風と共にさりぬ」のアシュレイを思い出しました。
 
 
 
人生をある程度過ごした大人にお勧めしたい文学です。