仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「寺田寅彦」     ちくま日本文学全集文庫

寺田寅彦は明治の物理学者で、優れた随筆を多く書いた。
夏目漱石の弟子筋。

随筆の内容はさまざまで
専門の科学分野もありますが
文学関連や日常生活における所感など
興味深い文章がいろいろあります。

夏目漱石の講演録などもそうなのですが
明治時代でありながら
現代に通用する文明批評など
鋭い論点が勉強になります。




私が好きな作品はまず「病院の夜明けの物音」

筆者が入院中の病院での生活の記録で
早朝の病室で聞こえてくる物音について述べている。

入院中の病室生活というのは非日常な空間であり、
普段なら見過ごすような何気ないことが、印象深く受け止められるものだと思う。

ごく当たり前の日常の出来事を書いてあるだけに
優れた文章であることがよくわかる。
文章製作の見本にしたいくらい。
特にオノマトペ(擬音・擬態語)のお手本として良い。
    「ザックザックと物をきざむような」「チョロチョロチョロと水の湧き出すような」
    「ザブザブザブザブと水の溢れ出すような」

「文学」とはこういった文章かという思いを抱きます。




次に「俳句の精神」「連句の独自性」といった俳句についての作品。

俳句と短歌の違いについては、以前に自分も考えたことがあり
ここでの記事にもしました。

筆者は、日本という国で俳句が生まれた必然性について
論じており、参考になりました。
やはり四季があり、狭い国土に多様な気候が備わっていることが
不可欠な条件のようです。
俳句と短歌の違いについても触れていました。




「電車の混雑について」は現代の通勤ラッシュに
たとえられる話でおもしろかったです。

以前、電車の本数が多い地域ほど駆け込み乗車の
割合が高くなるのが不思議だと
考えたことを思い出しました。



「自画像」は絵画を描く趣味のある方には
興味深いだろうと思います。





内容が多岐にわたっているので
どなたでも興味を持てる文章があるのではないかと思います。

購入して手許に置きたいと思う一冊です。