「中勘助」 [ちくま日本文学全集文庫]
代表作「銀の匙」は好きな作品ですが、
他の作品は読んだことなかったです。
「銀の匙」のイメージから
白樺派的理想主義の叙情派作家だと思っていましたが
この一冊でそれを見事に覆されました。
この文庫シリーズは
一人の作家ごとに(主に)短編を集めたもので
収録作品の選択ぶりもおもしろさだなと思っていましたが
この「中勘助」はまさに秀逸!
何がかというと「銀の匙」と「犬」が並んでいるところがすごい。
「犬」は、昔の異国を舞台とした空想的な小説ですが
とってもエグい設定です。
主人公はカースト下位の娘で
ある時敵国の軍隊長に犯され身ごもってしまう。
しかし、娘は男に思慕を抱く。
許されない妊娠を償うために
苦行中の聖者(汚らしいジジイ)と共に暮らすことになる。
娘の罪を清めるどころか、
自分の欲望に負け、娘を犯した聖者は
初めての性体験の虜となり
娘の体を独占するために
自分と娘を犬に変身させてしまう。
犬となった二人は
性的生活にひたる。
その辺の心理描写がリアルで
ほんっと~にエグイ。
結局、二人とも悲惨な最期をとげます。
このエグイ「犬」が
同じ作者で同じ本に並んでいるというのが
圧巻です。
この作家は夏目漱石の弟子にあたり
「漱石先生と私」という随筆も載っていますが
なかなか偏屈な人物であることがわかります。
もともと詩の愛好者で
散文には興味がなかったそうです。
「銀の匙」を読めば、なるほどと思えます。
読書でここまでの
精神的衝撃を受けるのは
久しぶりかも。
人間の内面というものの複雑微妙さを
思わされます。
いや、人間一般にあてはめるのは
どうかな。
作家という特殊な人種に限るべきかも。