「我が家のヒミツ」 奥田英朗 (集英社文庫)
「家日和」「我が家の問題」に続く家族小説シリーズ第三弾
シリーズといっても、家族をテーマにした短編集というだけで
三作の中で継続したストーリーは1篇ずつだけです。
奥田氏が作風が多彩で、作品によって全然違いますが
このシリーズはもっとも心温まる系に位置しています。
「虫歯とピアニスト」「正雄の秋」「アンナの十二月」「手紙に乗せて」「妊婦と隣人」「妻と選挙」
の6篇が収録されています。
子供ができそうにないことが懸案事項の妻、会社の出世争いに負けた中高年男性、
生みの父に初めて会う女子高生、母を亡くした新米サラリーマン、産休中の妊婦、小説家とその妻
など、1作ごとに主人公は異なります。
生みの父と育ての父を比較して、育ての父のありがたみに気づいた女の子や
母を亡くして周囲の人の思いやりの有無に気づく若者などが気にいっています。
前々作から連続したストーリーであるのは「妻と選挙」
小説家の夫、専業主婦の妻、二人の息子の家庭です。
それぞれ年代が5年ずつくらい変わっていて、家族関係の変化や小説家としての地位の変化などが
味わえます。
以前に読者の感想で、この作品を「きっと作者の姿が投影されているのでしょうね」というのを
見ましたが、そんなことはないだろう(笑)
奥田氏のエッセイで書いてありました「こんな偏屈ものには結婚生活は無理」
それから作品からわかる人物観察眼の鋭さ。
こんな男性と生活を共にできる女性はまずいないでしょう。
きっと作者は自分を揶揄するような気持ちで書いているんじゃないかな。