仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「使命と魂のリミット」    東野圭吾

東野圭吾の小説です。
手に汗握って一気に読み上げました。
 
社会的な視点を持つ内容です。
医療ミス(倫理)、企業の製造物に対する社会的責任、
警察官の職務責任などいくつかが重なっています。
 
非常に現代的なテーマで興味深いです。
 
日本は昨今、訴訟型社会に近づいていて
何か問題が起きた場合、その責任の所在を追求して弁済させる
ことが日常茶飯事になっています。
その反作用として、訴訟を嫌って産科医のなり手がいなくなる
などの新たな問題が生じています。
 
また、責任の追及が本当に責任を持つべき人物にまで及んでいない
というケースを作品の中で取り上げています。
 
 
 
しかし、この作品はそのテーマを社会学的に解明するのではなく
個人の倫理観によってアプローチしています。
 
「使命」という言葉がこの作品のキーワードです。
職業倫理、理想、アイデンティティ、信念、良心といった意味を含んでいるように思います。
「人間はその人にしか果たせない使命というものを持っているものなんだ。」
主人公の亡き父の言葉です。
 
自分ももっと若い頃は、自分に対する理想や仕事への向上心にあふれていたなあ、
と今さらのように思いました。
年齢を重ねるにつれて、現実に疲れてなあなあになっていっています。
「若さ」を保つことは難しいですが、現状に開き直ってはいけないと思いました。
 
 
 
昨今の医療問題について自分が持っている意見と重なる文章が
作品中にあるので、引用して終わります。
 
 医師とは無力な存在なのだ。神ではないのだ。人間の命をコントロールすることなどできない。
できるのは、自分の持っている能力をすべてぶつけることだけだ。
 医療ミスとは、その能力の不足から生じる。 
 能力のある者が、わざとそれを発揮しない、ということはありえない。そんなことはできないのだ。
道徳だけの問題ではない。全力を尽くすか、何もしないか、その二つのことしか医師にはできない。
 もちろん世の中にはいろいろな医師がいるだろう。