仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「夜のピクニック」 恩田陸

高校の行事の一日を通して、若者たちの一瞬を描いた青春小説。
本屋大賞など受賞。 映画にもなっています。
 
 今日は北高の歩行祭。朝の八時から翌朝の八時まで(数時間の仮眠をはさんで)80㎞を、全校生徒が
 ひたすら歩くという行事だ。西脇融(ニシワキトオル)や甲田貴子(コウダタカコ)にとって高校生活最後のイベントだ。
 貴子はこの日にある賭けをしていた。それぞれの想いを胸にひめ、歩行祭が始まる。
 
 
タイトルがすてきですね。
わりと長い小説ですが、時間にするとたった24時間です
 
丸一日ただただ歩き続けるという我慢大会のような行事ですが、棄権したがる生徒はいません。
箱根駅伝の選手のように、痛む足をひきずってでも歩き続けようとします。
「行事」というものは、学生のころは特別な重みを持っていましたよね・・・。
     みんなで、夜歩く。たったそれだけのことなのにね。
     どうして、それだけのことが、こんなに特別なんだろうね。
 
 
二度とは戻ってこない今日一日の様子が語られていきます。
親友との絆を改めてかみしめたり、今まで気付かなかった一面を発見したり。
昼間は毎日いっしょにいる友だちでも、夜をともに過ごすというのは格別ですね。
   こうして、夜中に、昼間ならば絶対に語れないようなことを語っている今こそが   
   ---全身痛みでボロボロなんだけど、顔も見えない真っ暗なところで話をしながら
   頷いているのが、あたしの歩行祭なのだと。
  
 
歩き続けながらのこま切れの会話ややりとりで、いろいろな事が見えてきます。
貴子と融にとって、とても長く大切な一日となります。
 
   あとで振り返ると一瞬なのに、その時はこんなにも長い。一メートル歩くだけでも泣きたくなるのに、
  あんなに長い距離の移動が全部繋がっていて、同じ一分一秒の連続だったということが信じられない。
   それはひょっとするとこの一日だけではないのかもしれない。  
   濃密であっというまだったこの一年や、ついこのあいだ入ったばかりだったような気がする高校生活や、
  もしかして、この先の一生だったそんな「信じられない」ことの繰り返しなのかもしれない。
   
   これから先、二人を待ち受ける長い歳月。言葉を交わし、互いに存在を認めてしまった今から、二人の
  新しい関係を待ち受ける時間。もはや逃げられない。一生、断ち切ることのできない、これからの関係こそが、  本当の時間なのだ。 
 
 
 
 
青春時代とは特別な時間で、二度とは戻ってこないものだ、と年をとってから実感します。
まっただなかにいる若者たちには、その貴重さは感じられないものなのでしょう。
 
まだその時代の中にいるうちに、その貴重さを客観的に伝えてくれる作品に出会えることは
幸運なことです。
現役の中学生や高校生のみなさんに、ぜひ読んでほしい名作です。