仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「女性に関する十二章」 伊藤 整  [中公文庫]

作者は昭和期活躍した評論家、作家。
チャタレイ夫人の恋人」を翻訳したことで裁判になったことが有名。
 
雑誌「婦人公論」に連載されたエッセイで、ベストセラーとなる。
その後、伊藤整ブームが起きる。
 
 
 
本の装丁の、いかにも時代錯誤っぽいレトロな雰囲気に興を覚えて手に取りました。
戦前の「修身」のような女大学的道徳を説かれるのかと思っていたら
全然そんなことはなく、非常にためになりました。
 
書かれたのは戦後すぐなので、文化風俗は現代と違うのですが、
内容的にはいつの時代にも通用するものです。
古典文学を読んでいて、男と女の仲は千年たっても変わらないな~
と思うことがありますが、そういう感じです。
 
結婚適齢期の若いお嬢さんにお勧めしたいですね。
 
 
 
読者に語りかけるような、ユーモアのある文章で読みやすいです。
内容的にはけっこう重いテーマで、耳痛いことも言われているのですが
すらすら読めてしまうのは、文章がうまいからですね。
 
章題をいくつか引用します。
     「結婚と幸福」「女性の姿形」「哀れなる男性」「妻は世間の代表者」「愛とは何か」
     「正義と愛情」「情緒について」「家庭とは何か」
‘男と女の間には深くて暗いミゾがある’なんて言い方をしますが、
この永遠のテーマを明快に説き明かしてくれていて、「目からウロコ」な内容です。
 
 
印象に残った文章を引用します。
 
 男性は、非常に大きな、意識した、意志と努力と自覚によるのでなければ、性的に貞潔であることができないも のです。もし、ある女性が、その夫や愛人が自己に貞潔を守ってくれることを理解した時、彼女は、その男性に 相当強い感謝と理解を示すべきだと私は思います。
 
結婚後ある期間を過ぎると、「私をもう愛していないのかしら?」と妻を不安にさせる態度を夫がとることについて
 これを性心理学から申しますと、女性の確保によって、男性が求愛期間の擬態的女性崇拝の姿勢から脱出  して、行動の自主性を取り戻したことの意思表示、つまりサカリが過ぎて、シッポを振る必要がなくなったことを 意味します。
 
 結婚というものは、決して人間生活の最終的な理想形態ではない、と私は考えます。結婚はしかし、人間にあ  る生物的な弱さを包み、補い、いたわる便宜的な、仮の生活形式にすぎない、と私は考えております。私は、結 婚生活を持続すること自体が人間として相当無理なことであると思います。しかし、人間はいろいろな弱点を持 っていますから、一般的には結婚生活が必要なので、その中で生活しないと、不安定に陥り、恐怖や衝動にお そわれがちなものです。
 
 
現代においては当時より選択肢が増えた分、女性の生き方はより難しくなっているといえます。
キャリアと家庭生活の両立に悩む方など、この本が参考になるのではないでしょうか。
 
 
 
 
 
渡辺淳一氏のエッセイ「男というもの」が、この本と近い内容ですが
男性側の立場で論じていて、都合のいいこと言ってるなあ、
という気がちらっとしましたね~