仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「あやし」 宮部みゆき  [角川文庫]

時代小説短編集。9編収録
人情物ではなく、怪談です。
「居眠り心中」「影牢(カゲロウ)」「布団部屋」「安達家の鬼」「女の首」「時雨鬼」など
 
題材はオカルトっぽいのですが
怪奇物というよりは、人の心の恐ろしさを描いた心理物のように思います。
 
 
 
 
一番怖かったのは、「影牢
ある商家の家族が全員、亡霊に?とり殺されるというお話。
 
毒を飲んだ家族がののしりあいながら死んでいく有様とか
座敷牢から、餓死した白骨死体が出てくるとか
物理的にも怖いんですけど、
実の親を心底憎み、妻といっしょに母親をいじめ殺すという
骨肉の争いが恐ろしかったです。
 
 
 
一番好きなのは、「女の首」
カボチャの神さまが出てきたりと民話っぽくて
ほのぼのとした雰囲気のあるお話です。
 
主人公 太郎は、みなしごで口きけぬ少年。
気だての良い子で、こっくりとうなずいたりと仕草で意思表示する様子がかわいいです。
 
太郎の二人の母それぞれの、息子を愛する姿に心温まります。
 
 
 
しみじみ感じ入ったのは、「時雨鬼」
 主人公お信は商家に奉公する女中。
 あることを相談するために、口入れ屋(就職斡旋所)を訪れると
 世話になった主人の代わりに女房がでてくる。
 
お信は、道で知り合った男を好きになりその男に水商売への転職を
勧められ迷っています。
口入れ屋の女房はお信に、悪い男に騙された女の末路をこんこんと
説きます。
 
女房は実は盗賊の一味だったのですが、お信は女房の言葉に真実味を
感じ悩みます。
わかっていつつも騙されてしまう女の哀しさを感じました。
 
 
 
 
不思議な読後感が残ったのは、「安達家の鬼」
 
 主人公「わたし」は女中奉公の後商家に嫁ぎ、姑の看病をする生活に入る。
 姑には「鬼」がついていて、その「鬼」がどんな姿に見えるかでその人間の性根が
 わかるのだった。
 
「鬼」のおかげで、関わる人間の正体が判別できたため
姑夫婦は一代で商売を繁盛させられたのです。
確かにそれが出来れば、どんなに世渡りしやすいだろうなあ。
 
姑にとっても「わたし」は不思議な存在だったのは、「わたし」には鬼の姿がまったく感じられず
そんな人間は初めてだったからです。
文章は「わたし」の語りなので、客観的にどんな人間なのかがわからず、気になりました。