仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「冬至祭」 清水義範    [筑摩書房]

清水義範氏のいつものイメージとは違う、シリアスな現代家族小説
現代社会の問題点がいくつも題材となっています。
 
  戸田直人はテレビ局の報道番組のプロデューサー、やり甲斐をもって仕事に打ち込んでいる。
  専業主婦の妻今日子と私立中学に通う息子拓人の三人家族。
  ある日妻から、拓人が学校を無断欠席することが続いているという相談を受ける。
 
 
拓人は本格的に不登校状態になっていきますが、
直人は最初は仕事にかまけて今日子に対応を押しつけ、まともに関わろうとしません。
このまま、事態が深刻化して家庭崩壊に至るのかと思いましたが
さすが清水氏の小説だけあってそういう救いのない展開にはなりません。
 
直人を変えたのは、制作している番組の中で教育評論家が述べた
「非行に走る子供や不登校、ひきこもりなど心の病にかかる子供は
 ほとんどの場合、親子関係に問題がある。」
という言葉でした。
 
その後、拓人がリストカットをしたことから、
直人は自分の生活全てを費やして、拓人を見守る決心をしました。
そのために仕事を辞めます。
  「このままだと、あの子の命に関わるって気がするんだよ。父親として、そんな我が子をほうっては
   おけんじゃないか。命に関わるというのは考えすぎだとしても、人生には関わるよ。
 
直人は自分の故郷の秋田に拓人とともに移り住み、家業の納豆製造業を
再開させ、拓人といっしょに仕事に励みます。
 
 
 
直人の反省点は、子育てをすべて妻にまかせてきたということでした。
そのような状況になった理由は、今日子のアイデンティティに関わる問題でした。
今日子は結婚前新聞記者として働いており、出産後は復帰するつもりだったのに
健康を害して出来なくなり、精神不安定になりました。
そして自分の生き甲斐を息子の教育に見いだし、‘教育ママ’になっていたのでした。
 
直人は今日子には気持ちを整理する時間が必要だと判断し、
あえて妻と別居する期間を設けます。
 
 
最後は、三人が家族としてのまとまりを取り戻し、いっしょに新しい生活へと
踏み出す、という希望のある結末を迎えます。
 
 
 
現実は、小説ほどうまく解決するものではなく
父親が転職するなどということは簡単にはできないことです。
ただ、直人が持った覚悟はどんな親でも持つべきものではないでしょうか。
 
 
 
 
拓人が、通っていた私立中学について述懐します。 
  「あの学校って、生徒のほうを向いていない感じがしたの。私立だからかもしれないけど、生徒じゃなくて、
   その父母のこと、親のことをいちばん気にしている感じなんだ。だからあの学校には、親の代理みたいな
   ところがあって、生徒をしめつけてくる感じだったの」
 
現代日本では経済の論理がすべてに幅をきかせ、政治や教育など畑違いの分野においても
企業家が自分の論理を持ち込んで批判をします。
しかし、生徒と学校(教師)の関係を、需要と供給、消費者と販売者の関係にしてしまったことが
学校が荒れる一因なのだと思います。