仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「土佐日記」  紀貫之   [平安時代]

紀貫之は、古今和歌集の選者の一人で「仮名序」を執筆した。三十六歌仙の一人。
 
土佐日記」は、
紀貫之国司の任期を終えて、土佐から京まで帰る五十五日の船旅の様子を綴った日記文学
文章は女性のふりをして仮名文字で書いている。
当時社会的地位が低かった仮名文字をあえて使ったことなど、文学史上の意義のある作品で
後の女流文学に影響を与えている。
 
 
 
感想を一言でいうと
格調高くなく、お笑いアリ」です。
 
古今集紀貫之なので、さぞかし高雅な作品かと身構えていたら全然そんなことなかったです。
平安文学は上流貴族(の周囲)の視点で書かれているものが多いですが、
貫之は歌人としては一流でも身分は高くなかったので、生活水準や視点が違います。
 
土佐守(高知県知事)という役職は、上流ではない貴族が収入を増やすために
しぶしぶ都落ちする、といった位置づけだったようです。
 
 
 
日記の作者は、元国司(=貫之)に仕える侍女という架空の人物の設定。
主人(=貫之自身)を揶揄する記述も出てきます。
精神的女装をして書くコスプレ日記で
文章中にもギャクやだじゃれが満載で、下ネタまでアリです。
 
内容も、中小貴族の悲哀や庶民の生活感や浮き世の人付き合いのつらさなどといった
ごくごく現実的な話題が多いです。
 
一番多く記述されるのは船旅のつらさ・恐ろしさです。
なにしろ高知から京都まで行くのに五十五日間もかかっていますから。
天候が悪くて足止めされることがしゅっちゅうです。
海賊の襲来にもおびえています。土佐国司=海賊を取り締まる職務を
終えて帰ってくる途中ですから、わざわざ追いかけてくる恐れは大ですよね。
 
お客様である元国司も、船の上では運行責任者の船乗りには
逆らいがたく、両者のやりあいの様子がおかしいです。
 
 
 
さすがだなあと思うのは、日常的な会話の中で和歌がさらりと詠まれることです。
貴族である主人公はもちろん、幼い子供や肉体労働者である船乗りまで
それぞれの人柄に応じた歌を詠んでいます。
 
 
 
 
短い文章ですし、肩が凝らず
気軽に手に取ることができる一作だと思います。