仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「八十日間世界一周」 ジュール・ヴェルヌ   [フランス]

子供のころ好きだった本を、久しぶりに読み返してみました。
 
 ヴェルヌは、「十五少年漂流記」などの冒険小説を多く書き、
「SFの父」と呼ばれた作家です。
 
 
 主人公はロンドン在住の紳士フィリアス・フォッグ氏。
 財産家の彼は毎日を「革新クラブ」で過ごす。彼はこの名誉あるクラブの会員であるが
 その前歴はだれもしらない。
 
 ある日、いつものメンバーとカードゲームをしている時、
 「八十日間で世界一周ができるようになった」という新聞記事が話題になる。
 懐疑的な意見を述べる仲間に対し、フォッグ氏は実現可能だと断言し、
 証明するためにみずから世界一周の旅にでることになる。
 この賭に破れたなら、フォッグ氏は全財産を失う。
 
  ちょうどその日から働くことになったフランス人召使いパスパルトゥーを連れて
  フォッグ氏は1872年10月2日午後8時45分、世界一週の旅にでた。
 
この頃は飛行機はまだなく、海外旅行は船で行います。
鉄道は普及し始めていますが、まだ十分ではありません。
自動車もなく馬車を使います。
 
 
この物語のもう一つの軸は、大銀行から大金が盗まれた事件です。
フォッグ氏が犯人の人相書きに似ていたため、刑事フィックスは
彼を逮捕するために、世界一周旅行を追跡することになります。
 
当時イギリスの銀行では、大金が客の手の届くところに平気で置いてあったそうです。
「客が盗む」という疑いを持つこと自体があり得ないことだったそうです。
さすが紳士の国
 
物語の随所に、イギリス紳士としてのプライドが描かれています。
誇りのためなら、財産も命もあっさり投げ出すフォッグ氏はかっこいいです。
それに比べてフランス人パスパルトゥーは道化役的な描かれ方をしています。
これはイギリス人から見た一般的なフランス人像なのでしょうか。
でも作者はフランス人なのですが
 
 
 
この物語の魅力はまず、幾多の困難を乗り越えながら80日間世界一周を
達成できるかというスリル感です。
船や鉄道の予定は組んであったものの、トラブルが発生して乗り遅れます。
しかし、冷静沈着なフォッグ氏は顔色も変えず、別の手段を見つけて移動してしまいます。
インドの山奥で象に乗ったり、アメリカの雪原をそりで走ったり。
 
フォッグ氏は、礼儀正しい紳士なのですが、実はかなり強引で
目的地に向かう船がなければ、別の場所に行くはずの船に乗り込んで
船長を閉じこめ船員を買収し、自分の行きたい場所に進めさせてしまいます。
挙げ句の果てに、途中で燃料が足りなくなると、船長から船を買い取り
木の部分をはぎ取らせて燃やさせ、なんとか目的地までたどりつかせてしまいます。
 
 
 
物語のもう一つの魅力はフォッグ氏という人物です。
彼はかなり個性的なキャラクターです。
 
ロンドンで暮らしている時は、時計のように規則正しい同じスケジュールの生活を
毎日送っていたのに、カード中の雑談がもとで、
全財産を賭けた旅行をあっさり決め、その日の晩に出発してしまいます。
 
冷静沈着で何があっても動揺せず、無駄な言動はいっさいしません。
紳士ではあっても暖かみのない人間かと思えば
ここぞという時には、他人に対する思いやり、優しさを行動で示します。
(でも、言葉や表情には出さない)
 
インドで、夫に殉死させられそうになっていた女性 アウダ夫人を
命(と財産)をかけて助け出します。
アウダ夫人はフォッグ氏についてロンドンまでやってきます。
ラストシーンはなかなか女心をくすぐるハッピーエンドですよ
 
 
フォッグ氏の経歴は結局なぞのままなのですが
暗示はされています。
旅慣れているところ、世界各地の実情に詳しいところ
船の操縦の指揮ができたところをみると
船に関わる仕事で一財産築いたのでしょうか。
 
 
紳士で、不言実行で、ツンデレで、
なかなか私のツボをつく男性ですね