仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「水の肌」   松本清張   [新潮文庫]

推理小説短編集
 
「指」「水の肌」「留守宅の事件」「小説3億円事件」「凝視」
の5編を収録
 
 
「指」は、玉の輿に乗るために、自分の過去を知る知人を殺害する女の話。
「水の肌」は、まったく自分勝手な理由で、元妻の再婚相手を殺害して元妻の家の庭に埋めた男の話。
「留守宅の事件」は、保険金目当てで妻を殺害した男の話。
「凝視」は、妻を強盗によって殺された男性が逮捕され冤罪にかけられそうになるが、警察の捜査に
真犯人が捕まるまでの話。
 
 
 
殺人事件を描いていますが、謎解きが主題ではありません。
警察が地道に捜査して犯人を捕まえています。
印象に残ったのは、犯人や被害者の心理です。
 
一番強烈だったのは「水の肌」です。
 犯人である男は、コンピューター技術者として優れた能力を持つが 
 人間性に問題があり、他人に無関心で自分の利害しか考えていない人物である。
 
 彼は勤めていた会社を辞め、妻の実家の援助で海外留学に行く。
 その途中で出会った資産家の娘と関係が出来、結婚を望む。
 しかし、離婚に至るまでのトラブルを疎んで元妻には連絡を絶つことに決める。
 数年後に元妻が失踪した夫の籍を抜いて、別の男と再婚するだろうという予測による判断である。
 
 果たして、三年後元妻は再婚したが、男は喜ばなかった。再婚相手は彼の元同僚である。
 自分より能力の劣る男が出世していること、元妻が予想通りとはいえ自分を待たずに別の男と 
 再婚したことが不満なのである。
 
徹頭徹尾、自分勝手な男で、「女性の敵」と呼びたいような人間です。
でも読み終わった後、そんなふうに感情的になるよりも
そこにある「事実」に圧倒されてしまいました。
この、とことんまでの身勝手さも、人間性の一面の真実のような気がします。
 
 
 
やっぱり松本清張作品には、自然と居住まいを正してしまうような
冷厳さがあります。