仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「羅生門・鼻」 芥川龍之介    [新潮文庫]

平安期の説話に材をとった、王朝物 8編を収録
羅生門」「鼻」「芋粥」「運」「袈裟と盛遠」「邪宗門」「好色」「俊寛
 
 
古典的名作を買う場合、私は新潮文庫を選びます。
活字やレイアウトが格調高くて好きなんです。
注釈もしっかりしてるし、ひものしおりも便利です。
(他社の文庫はそうなってないのは特許なのかしら?)
 他の会社の文庫はなんとなく‘軽い’気がしてしまうのです。
岩波だと逆に学問的すぎて肩がこるし。
 
 
 
芥川を一冊読むなら、この本がお勧めです。
代表作がみな入っています。
最初の3編「羅生門」「鼻」「芋粥」は代表作の代表作。
日本に限らず、どの国にも通用する普遍的な名作だと思います。
 
これらの作品に共通するのは
真理-時代や地域に関わらない人間共通の心理の動き-が描かれていることです。
 
短編であり、ストーリーは大きな動きがあるものではなく
あらすじにまとめたら、なんだそれだけ?といってしまうくらいの話です。
しかし、そこに描かれている登場人物の心の動きがすごい!
 
 
羅生門」の主人公は、仕事も住む家もなくのたれ死に寸前の「下人」。
彼は死人の髪を抜いている(売るために)老婆に出会い、会話し、去っていく。
短いその時間の中で彼の心境は鮮やかに移り変わる。
 
「下人の行方は、誰も知らない。」
という一文で終わるこの作品は
何度読んでも強烈な印象を残します。
 
 
「鼻」「芋粥は周囲から馬鹿にされている人物が主人公で、
シニカルであるような、心温まる感じもあるような
一言で論評しがたい作品です。
 
自分のコンプレックスを人に悟られないようにふるまう「鼻」の主人公、
周囲から侮られる自分をあきらめている「芋粥」の主人公。
それぞれ年来の願いがかなった時にはそれを肯定できず、
元の状態に戻ったことに満足を覚えます。
 
主人公の心理、そして周囲の人々の心理を見ると
人って、世間ってこんなものだよな~とうなずいてしまいます。
時代、舞台は異なっており、出来事自体は自分の身の回りに起きることではないのですが、
人の心の動きというものはいつの世も同じと考えさせられます。
 
 
 
袈裟と盛遠は、不倫の関係で女の夫を殺そうとたくらんでいる男女の
心境をそれぞれが語った物。
愛のすばらしさを語る独白-ではありません、もちろん。
逆です。
不倫の愛に酔っているような方々に読んで頂きたいと思う私は
意地が悪いですね。
 
 
邪宗門」は「地獄変」の続編にあたります。
キャラがたった二人(若殿と大殿)の激突、霊能力をもつ法師のアジテーション
美しき姫君を中にしての三角関係など
見所満載なのですが、残念ながら未完です。