仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「オセロー」  シェイクスピア [イギリス]

シェイクスピアは、その作品名もあわせて普通名詞同様の扱いを受けるくらいの大劇作家
16世紀前後のイギリス
 
「オセロー」はボードゲームの名前の元になっています。
ヒーローが黒人(?)、ヒロインが白人であることから来ているそう。
 
戯曲形式でしたが、ロシアのチェーホフよりはずっと読みやすかったです。
セリフが美辞麗句でやたら長いけど、ストーリーはわかっているので
面倒なら読みとばせばいいし(いや、本当はここを読み味わうべきだけど
 
シェイクスピア作品って、意外と(でもないの?)外国(イギリス以外)が舞台なのが
多いものなんですね。
ロミオとジュリエット」はイタリア、「ハムレット」はデンマークだし。
 
それから人種差別思想がストーリーの基本になってたりするんですねえ
ベニスの商人」とか。
これは時代的に当たり前のことでしょうけど。
 
 
 
  「オセロー」の舞台はイタリア・ベニス、サイプラス島。
  ムーア人の名将軍オセローと結婚したばかりの美しい白人妻デスデモーナと
  彼らを陥れる悪人の部下イアーゴーが、メインキャラクター。
  
主人公はオセロー、なんでしょうけど
印象に残ったのは断然イアーゴーですね。
 
冒頭は、敵役イアーゴーとその仲間との会話から始まり
イアーゴーのオセローに対する悪意が縷々吐露されます。
 
イアーゴーという人物は強烈なキャラクターの持ち主。
「人を見たら泥棒と思え」の性悪説の人。
自分の劣悪な人間性をすべての人に当てはめて、物事を判断しているようです。
 
デスデモーナの不倫をでっちあげて信じさせることによって
オセローを破滅させますが、その奸計がお見事!
人間心理のひだを知り尽くしたような計略で
高潔で有能な武人のオセローと貞操堅固な良妻デスデモーナ を
陥れます。
 
でも、そのイアーゴーも最期には計略が露見して処刑を受けることに
なるのですが、それは自分の妻に暴露されてのことなのです。
他人を思いのままに操った彼が、自分の身内に足下をすくわれるというのが
また人間劇の妙かなと思いました。
 
 
 
 
イアーゴーの印象が強烈すぎて主人公カップルの存在感が薄いです。 
 
オセローは人格高潔、勇敢で有能な武人という設定で、功績も挙げているのですが
物語から受ける印象としては、腹黒部下にあっさりだまされたお人好し
といった所。
愛妻を自らの手で絞め殺さずにいられなかった辺りは、嫉妬深くて女々しいし。
これを人種的コンプレックスの裏返しと見るのは短絡的な読み方のようですが。
 
社会的に有能な男性ほど、家庭生活においてはもろさを見せるものでしょうか。
 
 
デスデモーナは育ちの良い甘甘お嬢様。
ベニスの名家の息女で、ムーア人将軍との結婚は社会的に認知されないもので
駆け落ちして結婚し、父からは勘当されています。
この二人のなれそめは、デスデモーナの方からオセローの気をひいた所から
始まっています。
彼女はオセローの苦難に満ちた生い立ちを聞いたことから
彼を愛するようになっています。
この辺が苦労知らずのお嬢様ですよね~。
オセローの嫉妬心というものを想像もしないふるまいが、またお嬢様ならでは。
 
 
 
 
 
それにしてもシェイクスピアの「人間」の描き方は、お見事としかいうしかないですね。
演劇として数限りなく上演され
ストーリーは常識同然に知られており陳腐とも言えるのに
未だに名作の地位が揺るぎないのは
この卓越した人間心理の描写によるものなんですね。
 
やっぱり「古典」には長い時間や遠い国境をのりこえてきただけの
価値があるものだと、あらためて感じました。