「和歌とは何か」 渡部泰明 [岩波新書]
大学の一般教養の講義録といった感じの一冊
「和歌」をさまざまな角度から、学問的に解き明かしている内容です。
文学というより社会学的なアプローチと呼べるでしょうか。
技法の解説に、
記号(A B A' B' )や 数学みたいな図を使ったりしていて
大学入試の問題のようなページがあります。
和歌というものを客観的にとらえたい方にお勧めです。
第一部は「和歌のレトリック」
枕詞、序詞、掛詞、縁語、本歌取りの全5章で
技法から和歌を読み解いています。
第二部は「行為としての和歌」
贈答歌、歌合、屏風絵・障子絵、柿本人麻呂影供、古今伝授の全5章
社会的なシチュエーションごとの和歌について語っています。
「柿本人麻呂影供」というのは初めて知りました。
学校で和歌を習った時に多くの人が「しきいが高い」と感じる一因が
あの複雑な技法でしょう。
「本歌取り」なんて、盗作とどこが違うのかと思ってしまいますよね。
各技法をテクニックとして説明するだけでなく、その効果や
それが成立するに至った社会的背景まで論じていて
なるほど、と感服しました。
第二部「行為としての和歌」と序章「和歌は演技している」に
筆者のこの本を書くにあたっての姿勢がよく表れているように感じました。
私の最近のテーマ「和歌と俳句の違い」の現時点の答えの一つは
「和歌はメッセージ=限定された相手とのやりとり、
俳句は日記=自問自答、覚え書き」
です。
この本を読んでさらに
和歌の対話的性格は、プライベートよりもオフィシャルである傾向が強い
ということが分かりました。