「一つのメルヘン」 中原中也
一つのメルヘン 中原中也
秋の夜は、はるかの彼方に、
小石ばかりの、河原があって、
それに陽は、さらさらと
さらさらと射しているのでありました。陽といっても、まるで珪石か何かのようで、
非常な個体の粉末のようで、
さればこそ、さらさらと
かすかな音を立ててもいるのでした。さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、
淡い、それでいてくっきりとした
影を落としているのでした。やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、
今迄流れてもいなかった川床に、水は
さらさらと、さらさらと流れているのでありました……
中原中也さんは一番好きな詩人です。
「中也の帽子」=代表的な肖像写真でかぶってる帽子
が一万円くらいで売っていて、かなり迷った末諦めました。
先日、読み返す機会がありましたが
この「一つのメルヘン」は
宮沢賢治の童話 「やまなし」
「クラムボンが、かぷかぷ笑ったよ」
に似ているなあと思いました。
あと、映画「風の谷のナウシカ」の
腐海の底のシーンにも。
「彼岸」な感じのイメージです。
中也の詩では他に
「サーカス」などが好きです。