仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「放課後の音符(キイノート)」  山田詠美  [新潮文庫]

女子高生の恋愛心理を綴った8編を収録した短編集
恋する・恋にあこがれる女子にお勧めの小品。
 
 
「Body Cocktail」「Sweet Basil」「Brush Up」「Keynote」など
タイトルはすべて英語。
 7編の登場人物はすべて別個。
最終話だけ他編とつながっています。
 
 
テーマは、すべて17歳女子の恋する心情。
リアルな個人的な恋を描いたというより、
「恋愛感情」というものを、結晶化させたように
抽象的な概念として描き出しているような印象です。
 
たとえば恋する女子の名前はすべてカタカナ
カナ、リエ、マリ、カヨコなど。
相手の男子は漢字だったりするので
ねらいがあって、そうしているのでしょう。
 
 
それから、語り手である「私」は、恋する主人公ではありません。
恋しているのは別の女の子で、「私」はすぐ側にいる傍観者として
恋愛模様を観察し、語っているのです。
 
読者の女の子たちは「私」の目線で
「恋」というものを客観的に眺めることができるのでしょう。
 
 
 
 
そして、最終話の仕掛けがまたしゃれています。
傍観者だった「私」が最後には
恋の当事者になるのです。
 
2話の「Sweet Basil」は
「私」は、幼なじみの純一とは男女を意識しない親しい関係だった。
しかし、彼に熱い視線を送るリエのせいで
自分の中に生まれていた純一への想いに気づくが
今の関係を崩したくなくて、どうにも動けないまま
純一はリエの想いに気づき応えてしまう
というお話。
 
最終話「Keynote」では
純一がリエにふられた後、「私」の側に戻ってきて
お互い男女の感情を持つようになり
結ばれて終わります。
 
 
私は「Sweet Basil」の女の子が一番好きだったので
最後に結ばれてよかったなと想いました。
 
そして、この最終話は
作者からの読者へのメッセージなんでしょうね。
「傍観者は終わり、これからは恋の当事者に」という。
 
ティーンの女子のみなさんにぜひお勧めしたいです。
 
 
 
 
 
 
「その年代でなければ本当に理解できない小説がある」といいますが
これはまさにそういう作品です。
 
大人の私は
過ぎ去ったまぶしいものを眺めるような気持ちで読みました。
 
もう「恋愛」というものを、純粋な結晶のようにはとらえられませんね。
年をとるほどに、感情に雑多なものが混じってきて
単純に「好き」という気持ちは持てなくなります。
「好き・嫌い」だけで行動できた、若い日は遠くなったなあ・・・。