2018-10-06 十月の詩 おりおりのうた #詩 一つのメルヘン 中原中也 秋の夜は、はるかの彼方に、 小石ばかりの、河原があって、 それに陽は、さらさらと さらさらと射しているのでありました。 陽といっても、まるで硅石か何かのようで、 非常な個体の粉末のようで、 さればこそ、さらさらと かすかな音を立ててもいるのでした。 さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、 淡い、それでいてくっきりとした 影を落としているのでした。 やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、 今迄流れてもいなかった川床に、水は さらさらと、さらさらと流れているのでありました……