仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「町長選挙」  奥田秀朗

精神科医伊良部シリーズ第3作です。短編4作が収録。
回が進むにつれ、ますますおもしろくなっています。
 
 
「オーナー」「アンポンマン」「カリスマ稼業」の3作の患者は
有名人のモデルがいます。
名前をもじってあるから読めばわかります
 
町長選挙は東京都の離島が舞台です。
あの辺の島なんだろうなということは分かります。
その島が本当に作品みたいな状況かどうかはわかりませんが。
 
 
モデルになった人を思い浮かべながら読むので
余計におもしろいです
なにしろリアリティがあるので、本当にこんな心境なのかなぁと
いう気にさせられます。
ご本人が読んだら 怒りそうですが。
 
 
 
伊良部(と看護婦マユミちゃん)の発言がますますさえています
 
 「オーナー」
   「歴史を繙いても、権力の座についた人間は、必ず回春と不老不死の研究をさせるからね。
    長生きしたいと思うのは、田辺さんだけじゃないよ。」
   「普通の人の人生は、リタイアしてフェードアウトするけど、権力者の人生は終わりが死しかないわけ。
    だから、みんな過剰に死を意識するんだな」
 
 「アンポンマン」
   「一人で勝ってると遊び相手がいなくなるよ」
 
 「カリスマ稼業」
   「昔はみんな何の疑問もなく中年になったんだけどね、若作りの芸能人がブラウン管を賑わすから、
    強迫観念に駆られちゃうわけね」
 
 町長選挙」 
   「デモクラシーなんてものは、実は最善じゃないの。機能するには一定規模が必要なの。
    一万人以下のコミュニティだと、昔の藩主みたいなのがいて治めたほうが却って栄えるんじゃない?」
 
 
 
 「町長選挙」では、伊良部が初出張します。
島に二ヶ月間派遣されるのです。マユミちゃんもつれてきました。
この島の町長選挙は、都会ではありえないような白熱ぶりを見せます。
投票率95%!!)
 
患者は東京都から二年間の出向中の公務員、宮崎青年。
彼は住民票を移したばかりに選挙戦線に巻き込まれ、神経衰弱状態。
自分の良識・良心と地域の慣習という強い壁の間で、板挟みになって苦しむ
宮崎くんの姿は人ごととは思えなかったです。
 だから彼が最後に「もはや自分にもこの島を愛しているところがある」という心境に
なれた時はうれしかったです。
 
 この話には、社会学に関わるような深いテーマが隠れているように思います。
若者には、このおもしろさはわかりにくいかもしれないですね。