仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「蒼き狼」 井上靖

モンゴル帝国の始祖チンギス・カンの一生を描いた歴史小説
 
チンギス・カン業績は世界史的に見ても、ものすごいことがわかりました。
まず、大小の部族に分かれて抗争を続けていたモンゴル遊牧民を統一し、
秩序ある国家を建設しました。
さらに隣接する地域に侵攻し、領土を拡大していきます。
モンゴル軍の侵略はとどまることを知らず、チンギス・カンの死まで続きます。
その進撃のすさまじさは、地図で見てもらえばよくわかります。
 
距離・スピードもさることながら、内容がまたすさまじい。
攻めかけた時おとなしく降伏すれば許すが、反攻してくる都市はすべて
壊滅させてしまったそうです。モンゴル軍が虐殺した人の数はそらおそろしいくらいです。
普通に考えると、他国を侵略するのは領土に繰り入れて活かすためで、
つまり都市としての機能を保存しておかなければ意味がないのに。
進撃すること自体が目的と化しています。
 
 
 
 
井上靖さんは、この作品を書いた理由を
あの底知れぬ程大きい征服欲が一体どこから来たかという秘密
を書きたいと思ったから、と語っています。
 
答えは簡単にいうと
彼自身のアイデンティティを確立するため、ということになるでしょうか。
 
作品タイトルはモンゴル民族に伝わる伝承からとられています。
  --上天より命(ミコト)ありて生まれたる蒼き狼ありき。その妻なる惨白(ナマジロ)き牝鹿ありき。
大いなる湖を渡りて来ぬ。オノン河の源なるブルガン嶽に営盤(イエイ)して生まれたるバタチカンありき。
 
幼い鉄木真(テムジン)=チンギス・カンは、自分が狼と牝鹿の子孫であることに強烈な誇りを持ち、
成長していきます。
 
この物語の主題が一番強く表れているのは、長男ジュチが死んだ後の場面だと思います。
 
 成吉思汗(チンギスカン)は今こそ知ったのであった。自分が誰よりもジュチを愛していたことを。自分と同じように  略奪された母の胎内に生を享け、自分と同じように、自分がモンゴルの蒼き狼の裔たることを身を以て証明しな ければならなかった運命を持った若者を、成吉思汗は他の誰よりも愛していたのだった。
 
 
 
 
 
それにしても、当時のモンゴル遊牧民の習俗・価値観は、現代日本人(特に女性)には許しがたい部分
がありました。
わたし、日本に生まれてよかったです(笑)