仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「対岸の彼女」 角田光代(かくたみつよ)

女性による女性に向けての小説。
直木賞を受賞し、テレビドラマにもなりました。
 
 主人公は二人。
  田村小夜子=幼児の娘がいる主婦。三人家族、35歳
  楢橋葵=小さな旅行関連会社の社長。独身の一人暮らし、35歳。 
 外で働こうと決意した小夜子が、葵の会社の求人に応募した所から二人の関係は始まる。
 
 
対照的な立場にいる二人が、岸と岸でお互い向かい合って立っているという場面を
タイトルから想像しました。
二人は違う地点に立っているけれども、人生をどう進んでいったらよいかと
もがいている(もがいていた)点で共通しています。
 
物語は15の章で成っており、小夜子の現在葵の過去(高校時代)交互に語られます。
 
 
 小夜子は会社勤めをしていたが結婚を機に辞めてしまった。それは、女性社員同士の対立に
 まきこまれないよう努力することが嫌になってしまったから。
 けれども結婚後も、子供のために公園デビューをしようとしても、ママたちの派閥になじむことができず
 いろいろな公園をさまようジプシーになってしまった。
 そんな時ブラウスを買おうとして、その相場がわからないことにショックを受けた。
 良くない現状を打開するためには「働かなくては」と小夜子は決意した。
 
 小夜子にとって、同じ年で会社を経営し、明るくフランクでバイタリティのある葵は
 異人種のようだ。しかし、働き続けるにつれて二人の距離は縮まっていき、
 小夜子自身も変わっていく。
 
自信のない小夜子が、仕事を覚え自分の物にしていくことで変わっていきます。
お姑さんのいじめにもしっかり反撃できるようになる所は
「やった!」と思いました。
 
 
 
 葵の章は、高校に入学するところから始まる。
 中学までは神奈川にいたのに、群馬の高校に入ることになったのは葵のためだった。
 小学校から友だちが作れず、中学ではいじめを受け不登校になった。
 葵は、自分が変わるためには誰も知らないところに行かなければならないと思ったのだった。
 高校でナナコという親友に出会う。
 
高校当時の葵は別人のようです。読み進むにつれて、現在にいたるまでの経緯がわかってきます。
葵の高校は女子高です。女の集団の中で、周りを観察し、お互い牽制・攻撃しあうあの空気、
読んでいるだけでぐったりしてきます。
 
葵の過去も小夜子の問題も、女性であれば理解ができるものです。
同じような体験をした方も多いはず。
この本を読んでいると、とっても疲れます。
だからこそ、二人が手をとりあうことができたラストシーンには
とても感動を覚えました。
 
対岸にいた二人が、川の流れに逆らいながら歩みを進め
真ん中で出会えたんだと思います。