仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「憎悪の依頼」 松本清張

10編収録の短編集。推理小説ではないものの方が多いです。
 
松本清張氏の作品には凄みを感じます。
冷徹な人間洞察力と、戦後という時代がそろった故の迫力かと思います。
 
 
 
 「美の虚像」
 
 絵画の贋作の売買にまつわる謎。
 美術評論家梅林が新聞記者都久井に、あるスケッチ数点を贋作だと指摘する。
 しかしそれは、西洋美術の権威である故 遠屋氏が鑑定したものだった。
 二人が真偽を調査していくうちに、遠屋が激賞していた画家小坂田の関連が浮かび上がってくる。
 
真相は、遠屋氏が脅迫を受けていた結果による出来事だった。
しかし、最終的には遠屋が脅迫者に鮮やかな復讐をはたすことになっており
読みながら「ギャフン」といわされました。
 
 
 「女囚」
 
主人公は刑務所長 馬場
新しくきた刑務所で気になる囚人筒井ハツを呼び話をしてみる。
彼女は、母親を暴力から守るために父親を殺した罪で服役している。
 
ハツは父親を殺したことにまったく罪悪感を持っていない。
家族のためにしたことだからだ。
「実際、面会に来てくれる二人の妹の身なりが年々よくなり幸せそうだ」と言う。
ハツの笑顔に、馬場は森鴎外の「高瀬舟」を思い出した。
 
ハツに感動した馬場は、面会に来た妹たちに会ってみる。
ところが妹は、姉のしたことを「恨んでいます」という・・・。
 
 
ハツと妹の心情の食い違い、そして、それをつつきだすことになった所長の姿。
怖いというべきか、哀れというべきか、滑稽なのか。
 
 
 
 
 「絵はがきの少女」
 
子供のころの、思い出の絵はがきに写っていた少女の現在を追う話。
 
最後の場面が印象的です。
 「この話、小説になりませんか?」
 「ならないね」ぼそりといった。
 
 
 
 「大臣の恋」
 
国務大臣布施英造は傲岸不遜、厚顔無恥な人物。
そんな彼にも少年のころの美しい恋の思い出があった。
地方遊説の折に彼女に会えるかと胸をときめかせていたが・・・
 
権力者を揶揄する痛快さのある話です。