仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「しゃべれどもしゃべれども」 佐藤多佳子

小学生からおっさんまでの登場人物が、自分と格闘する青春小説
本の雑誌が選ぶ年間ベストテン」に選ばれました。
 
 主人公 今昔亭三つ葉は二つ目の落語家。芸の道の精進の毎日。
 ひょんなことから素人に落語を教えることになる。
 生徒は、対人恐怖症気味のいとこの大学生 、話し方教室で出会った黒猫のような女 十河
 関西弁の小学生 村林少年、元プロ野球選手のこわもて 湯河原
 落語教室の先生と生徒の面々はみな、自分自身にコンプレックスを抱えている。
 
 
「二つ目」とは落語家の位の中で、駆け出しと一人前の間のようなポジション。
三つ葉は、落語の中でも正統派の古典を志向しており、かたくなほどこだわっています。
普段から和服で通し、師匠や同僚からなんと言われてもこだわりを譲りません。
 
師匠から「おまえの噺はセコだ。」と言われたことからスランプに陥ります。
そんな中、いとこの良から話し方教室をしてくれと頼まれたことは大迷惑でしたが、
いつのまにか複数の生徒相手に落語教室を始めることになります。
 
生徒たちもそれぞれ自分の悩みに苦しんでいます。
まんじゅうこわい」がそれに有効なのかはわかりませんが、
回が進んでいくごとに何かが変わってくるようです。
 
 
村林と十河の落語発表会で物語はクライマックスを迎えます。
村林少年が「まんじゅうこわい」を通して、自分のトラブルを乗り越えた瞬間は
登場人物とともに喝采をあげたくなりました。
 
大人たちの問題は、少年ほど形がはっきりしたものではないので
解決したかは定かではありません。
でも、子供ががんばった姿には勇気をもらえた気がします。
 
 
 
 
 
作中、落語の今後の展望を憂う場面が出てきます。
三つ葉は古典にこだわりますが、世の中がどんどん変わっていく現代で
江戸時代のお話がいつまで通用するのか!?と問い詰められます。
 
私も正統派古典の落語が好きで、半端に現代に迎合したような噺は聞きたくありません。
でも、生活習慣が変わるほど古典噺はわかりにくくなっていきます。
そして、需要がない娯楽は滅んでいくわけで・・。
今後どうなっていくのでしょうか?
 
 
 
三つ葉は両親を早く亡くし、祖父母に育てられます。(おじいさんはすでに亡くなっています。)
古典にこだわるのは、落語好きのじいちゃんと茶道教授のおばあさんの
影響が大きいのでしょうか。
礼儀に厳しく気風(キップ)のよいおばあちゃんがいい味だしています。