仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「サウスバウンド」 奥田英朗

小学6年生の長男の視点から家族を描く、長編冒険小説
奥田英朗にしてはさわやか系な路線。
 
 上原二郎父親一郎は変わっている。いつも家にいて勤め先をもっていない。年金の支払いを
 拒否して役人を追い返す。「学校なんていかなくていい」「国はいらない」と公言する。
 母さくらは近所で喫茶店をやっている。OLの姉洋子、 小学二年生の妹桃子との5人家族。
 二郎はあることから両親の過去を知ることになる。父と母は昔、過激派というものだったらしい・・・。
 
 
父一郎のキャラがたちまくりです。見た目は 
  太い眉毛と、ギョロ目、赤味がかった天然パーマの髪。一度見たら忘れないというのが、多くの人の感想だ。
過激な思想家で自分を曲げる気はなく、豪快で赤鬼のように警官を投げ飛ばしたりします。
公安警察にも一目置かれているくらいの大人物です。
でもなにか愛嬌があってにくめない人です。
 
さくらお母さんは常識人のように見えましたが、彼女にもいろいろ過去があったのでした。
夫婦仲がよく、お父さんの後をどこまでもおっかけていっちゃう所がすてきです
 
 
一郎の元同志アキラの事件後、二郎たちは生まれた時から住んでいた東京を離れることになります。
父一郎の先祖の土地 沖縄(八重山)の西表島に移住します。
二郎と桃子は学校から帰ってきたら、母に「明日沖縄にいく」と告げられ、すでに家の中はからっぽに
なっていました。二人は動揺し、おばあちゃんの家に相談に行きます。
でも、母から電話がきて「帰ってこなければ置いていきます。おばあちゃんちの子になりなさい。」
といわれると、あわてて戻る所がかわいいですね。
やっぱり子どもには親が一番ですよね。
 
 
沖縄では先祖の話を聞かされます。父の先祖は八重山の独立闘争の英雄で、今でも尊敬されている
血筋だということです。先祖の銅像を見ると父そっくりです。
移り住んだ先は廃村の廃屋で、水道も電気も通っていないような森の中です。
開拓民のような生活が始まります。
 
移り住んだその家でも、一郎お父さんは悪徳開発業者との闘争を始めてしまいます。
結局は家を破壊され出て行くことになりますが、お父さんたちの闘う姿は立派でした。
 
 
二郎の父を見る目がだんだん変わっていきます。
東京にいるころは非常識な父が嫌でたまりませんでした。
しかし、彼自身に起こった事件や西表島で見る父の姿を通して、父への理解が深まっていきます。
 
父は最後の‘闘い’の前に息子に語ります。
 「二郎。世の中にはな、最後まで抵抗することで徐々に変わっていくことがあるんだ。奴隷制度や公民権運動   がそうだ。誰かが戦わない限り、社会は変わらない。おとうさんはその一人だ。わかるな。」
 「おまえはおとうさんを見習わなくていい。おまえの考えで生きていけばいい。おとうさんの中にはな、自分でも   どうしようもない腹の虫がいるんだ。それにしたがわないと、自分が自分じゃなくなる。要するに馬鹿なんだ。」
 
 
闘いの後、父と母は逃亡し、海の向こうへと旅立ちます。
残された兄妹三人は村の新しい住宅で暮らします。
 好きにしていいさ---。二郎は海に向かってつぶやいた。一緒に暮らすだけが家族ではない。
子どもを置いていく親は無責任のようですが、両親の仲が良ければ子どもはまっすぐ育つものではないでしょうか。
 
 
物語は、父の‘祖先’である英雄の言い伝えを二郎が朗読する所で終末を迎えます。