仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「返事はいらない」 宮部みゆき   [新潮文庫]

現代小説 短編集。6編収録
宮部作品の中では初期の方です。
 
人口過密な都会の中での、人間の孤独感を描いた作品が集まっています。
宮部さんは作家になる前に
速記職を目指して勉強したり、法律事務所に勤めたりしています。
そのころの経験がうかがえる題材が多いです。
 
 
 
 「返事はいらない」
 
銀行のATMを利用したコンゲーム(詐欺)が題材。
失恋したショックで自殺しようとしていた女性が
立ち直るために銀行から大金をだまし取る計画に加わります。
 
銀行のATMのコンピュータ管理のもろさを指摘した社会派的要素もある作品です。
 
 
 
 「ドルシネアにようこそ」
 
速記の資格試験合格を目指して勉強を続ける、さえない青年が主人公。
 
「ドルシネア」は六本木の有名なディスコで、お客を選ぶ高飛車な店
という設定。バブルの匂いがしますね。
 
主人公はバイトのために六本木に毎週通っていて、
ドルシネアやそこの客とは無縁の存在である自分を
みじめに感じています。
 
ひょんなことからドルシネアに足を踏み入れることになった彼は
最後には試験に合格し、息をはずませて六本木に向かいます。
 
 
 
 「言わずにおいて」
 
OLとして会社勤めをしている27歳の女性が主人公。
そろそろお茶くみOLとしては年を感じさせられるようになり
職場に居づらくなってきた彼女が
上司の無神経な発言にキレてしまった所からはじまります。
 
 
 
 「聞こえていますか」
 
老齢の一人親と折り合いが悪く
別居を選んだ家族が二組描かれます。
家族って難しい・・・。
 
 
 
 
 「裏切らないで」
 
若い女性が被害者の殺人事件。
動機は営利的なものではなく
女性同士の嫉妬によるものでした。
三十一歳の加害者は二十一歳の被害者の「若さ」に
強烈に嫉妬していたのでした。
 
 「若くなんかありません。それだけでいい目をみることができるほど若くはないんです。
  刑事さん、今の社会では、わたしはもうおばあちゃんなのよ。誰も振り返ってくれないわ。」
  ・・・・町を歩いていたって。もう、舗道の石と同じなの。・・・・・・・・
  昔はわたしも持ってたものを、彼女が今、全部持ってる。それを私に見せつけてる。」
 
こういう価値観の方は生きていくのがつらくてどうしようもないでしょうね。
老化を止めるのは不可能だから。
 
イマドキは「40代女子」という言葉があるくらいで
「若さ」の賞味期限が昔より延びていますが
それだけあきらめきれずにもがく期間が長くなって、より苦しむことになるのでしょうか。