仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「流れる」 幸田文

時代は戦後、没落しかかった芸者置屋の内情を、女中の目を通して描いた文学
 
作者は明治の文学者 幸田露伴の娘。
なるほど日本近代文学の流れをくんでいるなあという長ったらしい文章で、
読み始めた最初は退屈でしたが、慣れると物語に引き込まれていきました。
 
 
 
内容としては、戦後版 「家政婦は見た!」って感じです(笑)
芸者置屋という一般家庭とは異なる商売屋の、玄人の女達の人間模様を描いています。
ストーリーは女性週刊誌の芸能人ゴシップのようで下世話だともいえますが、
読んでいてうんざりしてこないのは
主人公である女中梨花の、芯の通ったキャラクターゆえです。
 
梨花は四十すぎの未亡人で、寮母などいろいろな仕事をしてきたが
その前には家庭の主婦として良い暮らしをしていたらしい。
夫と子供は亡くなってしまったようですが、彼女の過去ははっきりとは語られません。
梨花置屋の女達のことを興味津々で見守りますが
人間がひねくれていないので、意地悪な視点にはなりません。
 
梨花の観察の中で特に注目されるポイントや、
キャラクターたちの感情のやりとりは
いかにも「女」だなあと感じます。
 
 
この家は破産寸前で最初から最後までもめ事ばかりなのですが
話はなんとなく流れていき終わりを迎えます。
明確な起承転結のない語りぶりが、日本文学の伝統を受け継いでいる感じがします。
 
 
内容、テーマといい、文章といい
現代では決して書けない小説です。