仁美のヒトミ

趣味(読書、芸術鑑賞)の記録を主に、日々の雑感などをつづります。

「下流の宴」  林真理子   (文春文庫)

格差社会を描いた社会派小説、

というには軽いかな。

 

楽しく読めるので

肩肘はらずに社会的問題について考えてみるのに

良いと思います。

 

 

主人公 珠緒は沖縄の離島出身 22歳、

高校卒業後、東京でフリーターをしている。

オンラインゲームで出あった二歳下の高校中退、

フリーターの翔と同棲を始め、結婚を考える。

 

翔の母 由美子は、中流家庭の専業主婦ながら

階級意識が強く、珠緒を見下し結婚には断固反対。

珠緒は由美子への反発心から

医者になることを決意し、医大合格を目指して猛勉強を始める・・。

 

 

 

ストーリー展開にはやや無理がありますが

細部にはリアリティがあるので、つまづかずに読み進められます。

たとえば、珠緒は沖縄の上位高校の出身で勉強は嫌いではなかったという設定。

 

数年前にベストセラーになった「ビリギャル」が罪深いと思うのは

元々能力の低い子供に無用な期待を持たせたこと。

あの女の子はグレていた時期はあったようですが

元々学力はあったそうです。

だから一時ドロップアウトとしてもリカバリーができたのでしょう。

 

それから受験勉強のプロがついて指導を行った所。

高卒フリーターが独学で医大合格ではリアリティがなさすぎる。

受験マンガのバイブル「ドラゴン桜」でも

受験指導のプロが何人もついたおかげで

東大合格できたわけで。

 

 

 

それから家庭の教育力について考えさせられます。

珠緒の母 洋子は肝っ玉母さんで良いキャラです。

学歴はなく、由美子のいう「下流家庭」だけれども

人生観や人間への見識は骨太で

子供に生きる力を育てています。

 

翔の母 由美子はいわゆる教育ママで

娘と息子に手をかけて育てたにも関わらず

二人とも不本意な人生を送りつつあります。

 

学歴だけあっても意味がないのは確かで

勉学を実生活に結びつけられなければ仕方がない。

翔にはその力が育っていません。

彼は一生フリーターで良いと言い切ります。

年を取ったら健康を損ねるのでバイト暮らしは続けられないとか、

健康保険証を使えるのは親が保険料を払っているからとか、

バイトでは賃貸住宅を借りれず実家がなければ住む家がないとか、

を考えられないのです。

姉の可奈にも人生を現実的に見通す力がありません。

 

 

受験指導のプロ 島田が作中で主張することは

「大学を出たほうが人生の選択肢が広がる」ということです。

まったく同感です。

ただし、fランクの大学に行くよりは専門学校で資格を取った方がよいと思いますが。

 

 

数年前の作者のベストセラー新書「野心のすすめ」の

小説版なのかな、というのが感想です。